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テンポラリー通信

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2015年 12月 25日

交感・剛造ー土(21)

前回の吉増剛造展「水旗ヲル日・・・」では、草稿の数々が
台の上、透明なファイル、額装、アクリル板等で展示された。
そしてその草稿の描かれる色彩の筆の過程が、GOZOCINE
で詩とも呟きともとれる独白とともに上映された。
吉本隆明の「日時計篇」を書き写した草稿に思いを重ね独白を
続け絵筆を自在に揮う吉増剛造。
その生々しい絵筆が生み出す色彩と語りは、吉本的にいえば
正に<自己表出>そのものの姿だった。
日本の近代化が西洋への<指示表出>で始まったとするなら
鹿鳴館から現代のゴスプレ仮装に至るまで、自己表出の基層
は、今もまだ固い土着の闇に沈んでいる。
仮装で始まった日本の近代化、そのモダニズムは形を変え
戦後高度成長期の上昇気流の中、ある意味で疾走する詩人
吉増剛造の出現もその波長の中で注目を集めたともいえる。
その対極の構図にいた吉本隆明の戦後第一次高度成長期
朝鮮動乱のあった1950年代の初期詩篇を、今2年以上かけて
戦後モダニズムの先端にいた吉増剛造が写経のように書き写し
一行一行に語りかけ赴くまま絵筆を揮っている。
その生々しい記録を自らがカメラ片手に撮影し、その通し番号の
付箋の貼り付けた草稿が会場に展示されたのである。
都度都度撮影され送られてきたDVD映像は、合計7枚に及ぶ。
そしてその会期最後の映像では、孤独なモノローグの語りが一変
して「水機ヲル日・・・」展に関わった札幌の友人達の名前に呼び
かけて終わるのだった。
この孤独な吉本隆明と向き合う自己表出の個の世界から、遠い
展示の世界に関わった友たちへ、最新の草稿を通して呼びかけ。
これが今年の「怪物君 歌垣」の序章ともなっている。

そして前回に続き中嶋幸治さんが。それに応えるように今回の
フライヤーを制作した。
その思いは紙片に記しフライヤーに同封された。

 ・・・これまでのテンポラリースペースにおける吉増剛造展を
 踏まえて、詩の草稿の筆跡と色彩を平面状の升目から雲の
 様に立ち上がらせようと試みた。そこには、言葉から羽化する
 「怪物君」の甘美な姿を想像していたのかもしれない。
 ・・・・
 この案内状は「怪物君 歌垣」という題字を基点に、歌の根源
 へ立ち返るとともに詩の現在進行形を立ち上がらせることを
 製作者同士の対話と想像によって目指し、さらに呼応するよう
 にして、木版印刷、活版印刷、凸版印刷、ゴム版印刷、オフセ
 ット印刷、といった新旧の印刷技術を用いて制作した。

今回直接名を連ね作品を発表した鈴木余位氏には、展示草稿
以前の草稿を映像化依頼している。
村上仁美さんには直接今回の草稿を折りたたまれた絵の具滲む
生々しい状態で送られ、”秘すれば花なり”を示唆した。
山田航さんには、今展示に名を連ねタイトルに歌垣と題した事で
無言の内に自作の詩で歌での制作参加を促した。
それぞれが全力でこれに応え、前回の最後のヴィデオの呼びか
けに応えたのである。
国家的ゴスプレから始まった日本の近代化・モダニズムが、今
吉増剛造の孤独な自己表出の世界で、吉本隆明とこの地の友人
たちとの小さな対幻想の輪の中で少しだけ報われようとしている。

拙い、小さな会場からの報告です・・・。

*吉増剛造展「怪物君 歌垣」-1月10日まで。
 am11時ーpm7時:月曜定休・正月3ヵ日休廊。
 参加作家 鈴木余位(映像)・村上仁美(花)・山田航(歌)
 フライヤー制作 中嶋幸治 酒井博史
 会場構成 河田雅文

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503





 

by kakiten | 2015-12-25 13:53 | Comments(0)


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