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テンポラリー通信

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2015年 12月 22日

脈拍するー土(18)

帰京前吉増剛造さんが来る。
酒井博史、中嶋幸治、山田航3君も集まって
今回の仕事を労われた。
オープニングの夜とはまた違う関係者だけ
のあつまり。
吉増さん持参のワインとつまみを肴に乾杯。
オープニングの夜人の勢いで倒れた村上さん
のコウゾの作品は立て掛けられたままだった。
本人は仕事でまだ顔を出せないでいる。
今日も残念だが来ていない。
吉増さんが何度も呟いた。
このワインは少し残して置こう、村上さんにね・・。
今回の中嶋さん、酒井さん制作のフライヤー、
山田さんの長歌朗読、鈴木余位さんの映像構成
村上仁美さんのコウゾの木皮の作品とすべて
嬉しかった様だ。
一作日のオープニングのガラスへの頭突きは記憶
に無いと言う。
頭の打撲もたんこぶか青丹でもと思ったが、何も
無いという。
ラディカル剛造健在なり。
安心した。

翌日村上さん休みの日、作品の再構成が始まる。
コウゾの皮の間に吉増さんの草稿が5枚内皮のように
顕れる。
また吹き抜けの天井から電球の周りに吊り下げられた
コウゾの皮の周りにも原稿を包んでいた絵の具の染み出た
薄紙が皮膚のように浮き出て吊られた。
会場の風景が変わる。
空間がより脈拍するかのようになる。
そして初めて生々しい吉増剛造の草稿は包まれ折りたた
まれた閉塞・遮蔽状況から解放されたのだ。

オープニングの熱気の中で木の皮一枚の薄さに抗して
微妙なバランスで立っていたコウゾの皮の作品。
それが別の力で甦ったのだ。
そして吉増さんの生々しい草稿も初めて全貌を晒し、
息を吐いている。
吉増さんに見せたかった。
本人の望んだものも、きっとこの姿だったのだろう。
その期待に応えるのに、最初の作品形態が崩れる出来事と
作者の心の受容する気迫とが整う時間があったのだ。
折りたたまれた六個の草稿は今本当の内臓・筋膜のように
コウゾの樹皮に浮き出ている。
詩人の五臓六腑が脈拍を打ち出したようである。

今回の展示はこれでひとつの結果を生んだ。
吉増剛造の吉本隆明への孤独な写経のような仕事。
その日本近代の根への渾身全霊のアプローチが「怪物君」
と名付けられた現在六百余葉に達する草稿である。
テンポラリースペースで5年に渡り発表されたこの仕事を
より若い世代を含めた友人たちが芽として葉として枝として
参加し一つの結果を開いたのだ。
そしてそれは同時に戦後思想の大きな骨格吉本隆明と戦後
モダニズムの筋肉吉増剛造が戦後近代の根の世界から新たな
秘した花として、ひと時顕在化した瞬間でもあるのかも知れない。

+吉増剛造展「怪物君 歌垣」-12月15日(火)-1月10日(日)
 am11時ーpm7時:月曜定休・正月3ヵ日休廊。
 :参加作家 鈴木余位(映像)・村上仁美(花)・山田航(歌)
 ;フライヤー制作 中嶋幸治 酒井博史
 :会場構成 河田雅文
*高臣大介ガラス展ー1月下旬前後期2週間

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2015-12-22 15:47 | Comments(0)


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