2015年 09月 08日
空から雨となって地上に落ち、時に地中深く沁みいって 見えない旅を何年も続け、時を経て地表に溢れ出る。 泉となり、川となり、すべての水の母体・海へと帰る。 そしていつか再び熱い光の力で蒸気となり空へ。 水の移動・移住・移民。 ヌプサムメム(野傍の泉池)を見た幻は、長い水の旅の 束の間の幻景と同じものだったのかも知れない。 人の創り出す幻実世界。 それを芸術・美術と呼び、人間の第六の感覚・霊感の為 せる第六の身体・創造作品と思う。 人も水もすべての有機的な生物は、移動・移住・移民を 続け、その過程で風景を造りだす。 生命の縦軸・横軸が交叉して、森・丘・野そして山。 人間は結婚し家族を作り、時に移動し移住し新たな家庭 という移民となる。 遠い昔アフリカ大陸で誕生したという人類の祖先は、移動 と移住を重ね多くの地域に散らばり移民の国を作った。 しかし現代はどこかでその歯車がずれて来ている。 動・住・民の根が細くなり、移る事が増幅された難民の 世紀となっている。 中東で日々起きている難民の状況は、私達の日常にももっと 柔らかい構造で同じ質の状況があるのだ。 野傍の泉池と呼ばれた清華亭・偕楽園緑地一帯。 その泉と緑のエルムゾーンは、泉も枯れ森も川も消えて かって鮭が遡上したという面影は喪われた。 そしてその近くに新幹線の新しい駅が移動してくる話も浮上 している。 ヌプサムメム(野傍の泉池)は何時か難民となって、住と動 を喪い地中深く何処かに消えてしまったのだ。 水も人も本来は、移動・移住・移民のプロセスの中で、美しい 風景を創り出す存在だ。 個としていえば、人間個々の愛の風景であり、水は泉・川の 風景である。 その移動・移住は決して難民とは違う移動であるからだ。 泉が池となり、時に湖となるように、それはまた美しい移民と いえる水の移住なのだ。 人もまた同じである。 しかし<住>と<民>を喪った水は、難水となって風景を破壊 してゆくだろう。 一見穏やかな私達の社会風景も、その内側で心の難民風景が 加速化しつつ進んでいるように思える。 それは僅か百年にも満たない間に、野が泉が消失している事と 無縁ではない筈だ。 子供が乗り物の窓の外に喜ぶように、移動にも固有の風景がある。 移住にもそこに住む事で生み出される固有の風景がある。 移民には個的には家庭の風景があり、民族としては固有の文化 の風景が生まれる。 難民・難水は、非常時の混乱した風景しか生まない。 私達の日常は、混乱前の困乱を押し隠した同じ表情の画一化の 流れにあるかに思える。 水の流れが直線にショートカットされれば、水の表情は一見穏やか だが同一方向に直線で流され、そこに固有の風景は喪われて画一化 された均一の風景が広がる。 移る事を主にして、根の動・住を失った水は、その川独特の風景 を育む水の<民>を喪失して、ただの大地の危険な亀裂直線でし かなくなるだろう。 「Water Falー花とガラス」展が表出した風景は、かって 存在したこの地の野傍の泉池の風景であると私は思う。 その幻は、かってそこをテーマに表現の原点を感受したガラス作家 高臣大介の思いと、かってその一帯近くに住み青春を送った花人 村上仁美の見えない力が加わって顕在化したものだったと思う。 それぞれの移動・移住・移民の心の風景が見えない野の泉を生んだ のだ。 私達は梯子を上り腰掛けて、足下の野の水・泉を見るように見詰めた。 まるで幼子が車窓の動き消え去る窓外の風景を見るように、心躍らせて。 +加藤玖仁子美術講座「対話の試み・私達と芸術」-9月12日(土) 午後3時~受講料3000円 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2015-09-08 14:20
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