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2015年 05月 09日

風土という国(ランド)-斜道(24)

不意の一本の電話から13年前の4月の記憶が蘇って来た。
ロジャー・アックリング、シルヴィア夫妻の事。
そして作品を取り巻く当時のふたつの環境の差異。

4月7日から15日まで滞在制作とアーテイストトークの日程
を終え帰国したロジャーは、9月個展と滞在ドキュメント図録
の為全作品を完成させ送ってくる。
この時期北海道出身の某作家の個展が美術館で開催されようと
していた。
欧州で活躍し著名となった大理石の彫刻家である。
多くのモニュメントが市内だけでなく道内にもある作家だ。
画廊ではロジャー・アックリング展が始まり、美術館の学芸員
も見にきてくれた。
その中で個人的な意見だったが、これら全作品を美術館で
収蔵したいという話も囁かれたのだ。
私は当然とも思い、そして嬉しく期待した。
バラバラよりも一括して収蔵されるのが理想だったからである。
滞在記録と全作品図録も出版され、全作品も揃っている。
これらは純粋にこの地で生まれ、作家の並々ならぬ好意によって
展示されたものだ。
全作品が公的な美術館で収蔵されれば、これに勝る居場所はない。

そんな期待も終に遂げられずに終わった。
理由は予算不足で、この時開催の某作家の海外からの大理石作品
等の郵送費が予算を超えて大幅に計上され無理だというのだ。
故郷に錦を飾るではないが、すでにあちこちに飾られている作品
以外に海外からも多くの作品を運び込み展示する為である。
ボランテイアの市民団体も組織され資金集めに動いていた。
この作家の作品をどうこう言う積もりは毛頭ないが、作品を取り
巻くロジャーとこの作家の差異には、今も悔しい気持ちが甦る。
作品の本籍は作家の本籍ではない。
作品の国籍は作家の国籍ではない。
この主語の位置が逆転して、肯定になったのである。
それはロジャー・アックリングの望来滞在制作全作品よりも、
海外で活躍する北海道生まれの作家を誉れに見る位相の差異だ。

新幹線延伸、札幌国際芸術祭、札幌冬季五輪招致を提唱した前
市長が退任し、新たな市長が生まれた。
この3大公約は変わらず継承されるようだが、内よりも外を見る
文化目線はどうにも居心地が悪い。
新幹線もオリンピックも国際芸術祭も、みんな外を見た視座だ。
科学技術と芸術とスポーツとそれぞれの根は相違する筈だ。
それらを一緒くたにして文化というのは粗雑である。
あるのはご当地という、実は狭い郷土意識である。
あれもこれもでは、本来の土壌無視の只の花壇になってしまう。
移植行為だけ、花の咲いている時だけの綺麗事に終わるしかない。

ロジャー・アックリングの作品が一点もこの地に残らずに終わった
事はさびしい事だが、あの時全作品がこの地に残りいつも見られる
という夢を抱いた事もまた事実である。
今もその思いに変わりは無く、今もその思いに後悔は無い。
それは成し得なかった夢だけれど、作品が創造される過程で作家と
我々の土壌とも言うべき友情の関係性は、13年経た今も変わらず
熱く心に蘇るのも事実である。
それは場というランドが、郷土という<お国>ではなく作家と作品
を孕み育んだもうひとつの風土という名の国(ランド)を、共有した
からだと思うのだ。

ロジャー・アックリングが好んで引用した谷崎潤一郎の言葉

 電灯は暗闇を葬り去るが、ろうそくの明かりは暗闇を照らし出す

今蘇るロジャーへの友情はこの蝋燭の明かりのように、この地を照ら
し出している気がする。
決してそれは・・・葬り去る光ではなく、てだ。


*及川恒平・山田航「二本のポプラをめぐる二つのうた」
 5月16日(土)午後5時~予約2500円。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2015-05-09 14:46 | Comments(0)


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