帰国した谷口顕一郎夫妻が来る。
ちょうど及川恒平さんとのライブフライヤーを取りに
来た山田航さんとも再会し、作品取材の探索日程を
打ち合わせる事ができた。
路面の亀裂を素材とする谷口作品取材には、いつも
山田さんが随行していた。
私もそうだが、このメンバーが谷口さんには地元の
大切なスタッフである。
滅多に気に入った凹みが見つからないのに、このメン
バーだとすっと良い凹み・亀裂が見つかるんだ、と
谷口さんは話している。
本郷新賞受賞の作品の取材の時も谷口夫妻と山田、私
の4人で歩いたのだ。
それが契機となって新たな作品素材が見つかり、今度の
7月からの札幌彫刻美術館での個展へと結びつく。
個展に備えあと3ヵ月余り、さらなる作品制作と準備に
谷口さんは帰国したのだ。
今回は奥さんの彩さんも一緒で、先日私がD新聞に書い
た谷口さんの地下歩行空間に設置された作品論で、文中
彩さんのサハリン経由の欧州旅行記を無断引用した事を
詫びると、ドイツで送られてきた文を読み嬉しかったと
聞きほっとした。
これから7月まで札幌は一番良い季節を迎える。
もうすぐシラネアオイの透明な虹色の花が咲く。
そして上品な澄んだ甘さの山菜アズキナももう咲いてい
るだろう。
私の好みではこのふたつの植生が春の味覚と視覚を代表
する野草だ。
札幌郊外の近くの山野に普通に咲いているものだが、
他の山菜や花と比べあまり市場には出回らない。
それだけ保存が難しく、繊細な植生だからなのだろう。
どちらも水の澄んだ清流沿いに咲き誇っている事が多い。
そしてどちらも本州では亜高山地帯でしか見られないが、こ
こでは普通に川に近い山林に多く自生している。
車社会となり山裾までどんどん住宅街が延び、今はあまり
見かけなくなったが、住宅地の意外な陰に咲き残っている
場合もある。
これを見つけた時はちょっと至福の気持ちになるのだ。
谷口さんの凹み・亀裂もそうした自然と都市の境界に浮き
上がるラディカルな傷痕の徴跡でもある。
土という有機的な地面を破って咲く草花と、アスファルトという
フラットで無機質な人工地面を撃ち破って顕れる亀裂・凹み。
この対比の内に、作品の生まれる北の地を深く意識して欲しい。
そんな事を思っていた。
+及川恒平・山田航「二本のポプラをめぐる二つのうた」
5月16日(土)午後5時~予約2500円
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
tel/fax011-737-5503