卒業式の始まる季節。
漂う春の気配に思い出していた。
父の死で故郷へ帰る事を決めた大学4年卒業の春。
その断念の穴を埋めるように横浜郊外の見知らぬ家を
初めて尋ねる為歩いていた。
雪は無く乾いた路面。
北国では見られぬ赤い花が咲いていたような気がする。
東京に暮らして最初に感じたのは春の長さと植物の違い。
下宿脇の竹林と柿の木が珍しかった。
白熊さんとか、熊出るんでしょうとか、熊に関した北の
話題が下宿のおばさんに言われる事が多かった。
生まれた場所が札幌の中心だったので、熊が話題になる
事はほとんど無い環境だったから、思わずむきになって
否定した事も思い出す。
そしてそれまで絵本でしか見た事の無かった柿や竹の日
常的な風景が新鮮だった。
今の季節は桃や梅の木が順番に咲き、秋には柿の実が
赤く色づいた。
その順番が長くゆったりとして春も秋も北国より長く感じ
られたのだ。
同じ春でも路辺に残雪の腐れ雪の残り、真ん中だけが乾い
たアスファルトの札幌の道とは違う。
しかし何故か、見知らぬ街を住所を確かめつつ突き詰めた
思いで歩いていた時と、病でふらふらしながら初めて行っ
た病院の住所を確かめつつ歩いていた時とが、路傍の少年
少女の記憶として不思議なリンクをして甦ったのだ。
初冬と早春の違いはそのまま私の人生の春と冬の季節の距離
でもある。
しかし少年と少女は同じ10歳前後の年齢だっただろう。
あのふたりは早春の春の象徴のように、困難な状況と開く意志
の境界に現れた座敷童子だったのかも知れない。
冬の始まりと冬の終わりの境界の軋めく季節の光の花のように。
*高向彩子書画展ー3月24日(火)-4月5日(日)am11時ー
pm7時:月曜定休。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
tel/fax011-737-5503