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テンポラリー通信

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2015年 03月 18日

春の風ー歩行(16)

卒業式の始まる季節。
漂う春の気配に思い出していた。
父の死で故郷へ帰る事を決めた大学4年卒業の春。
その断念の穴を埋めるように横浜郊外の見知らぬ家を
初めて尋ねる為歩いていた。
雪は無く乾いた路面。
北国では見られぬ赤い花が咲いていたような気がする。

東京に暮らして最初に感じたのは春の長さと植物の違い。
下宿脇の竹林と柿の木が珍しかった。
白熊さんとか、熊出るんでしょうとか、熊に関した北の
話題が下宿のおばさんに言われる事が多かった。
生まれた場所が札幌の中心だったので、熊が話題になる
事はほとんど無い環境だったから、思わずむきになって
否定した事も思い出す。
そしてそれまで絵本でしか見た事の無かった柿や竹の日
常的な風景が新鮮だった。
今の季節は桃や梅の木が順番に咲き、秋には柿の実が
赤く色づいた。
その順番が長くゆったりとして春も秋も北国より長く感じ
られたのだ。
同じ春でも路辺に残雪の腐れ雪の残り、真ん中だけが乾い
たアスファルトの札幌の道とは違う。

しかし何故か、見知らぬ街を住所を確かめつつ突き詰めた
思いで歩いていた時と、病でふらふらしながら初めて行っ
た病院の住所を確かめつつ歩いていた時とが、路傍の少年
少女の記憶として不思議なリンクをして甦ったのだ。
初冬と早春の違いはそのまま私の人生の春と冬の季節の距離
でもある。
しかし少年と少女は同じ10歳前後の年齢だっただろう。
あのふたりは早春の春の象徴のように、困難な状況と開く意志
の境界に現れた座敷童子だったのかも知れない。
冬の始まりと冬の終わりの境界の軋めく季節の光の花のように。


*高向彩子書画展ー3月24日(火)-4月5日(日)am11時ー
 pm7時:月曜定休。
 
 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2015-03-18 14:13 | Comments(0)


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