南の遠くにある病院へ通院する為地下鉄と路面電車を乗り継ぐ。
小さな旅である。
同じ電車でもその車内の雰囲気は違う。
その差異は多分外の風景が見えるかどうかの違いと思う。
路面電車の方が車内は狭い。
人と人の接触も多いのだが、互いへの労わりが自然と見える。
何の変哲も無い外の風景が流れる、ただそれだけで人は十分に
優しくなれるのだ。
一方地下鉄は外の風景が見えない分人は自分の内に閉じ篭る。
その分閉塞的で他者に警戒的で攻撃的にもなる。
こんな小さな旅でも窓の外の風景があるかどうかで、人は変わる。
録音された自動的なメッセージが地下鉄車内に多く流れる。
人の乗降客の多い大通り駅前後には必ずご皆様乗車ありがとうご
ざいましたのメッセージが入る。
乗り降りの少ない駅で流される事はない。
路面電車では録音された停留所のアナウンスもあるが、運転手さ
んのひとりひとりへの短い挨拶がどんな停留所でも肉声で語られ
る。乗降客の多少は関係ない。
窓の外を流れる風景と運転する人との小さな結びつきが、狭い車
内の人の心に潤いを与えているのだ。
速度を重視し効率を重視した人と風景が消える乗り物は、旅という
より移動という物流に近いものと言えるかも知れない。
地下鉄車内でたまに見かける奇声を発したり大声で独り言を呟く人
を路面電車で見かけた事はない。
酔っ払って大声を出していた若者はすぐに近くのおじさんに注意さ
れていた。
旅は道連れ世は情というのがあってこそ旅といえるのだろう。
目的地へ早く着く事だけが人間の旅ではない。
途中の外を流れる街の風景、人の色んな人生が垣間見えてこその旅
である。
ふたつの車内を経験しながら、そのどちらもが人間の両側面を表して
人は鋳型で決め付ける事はできない、環境にも影響される生き物と
あらためて思った。
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