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テンポラリー通信

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2015年 02月 08日

亀裂と継続ー道行き(24)

新たに設置された新しい地下歩行空間広場の谷口顕一郎さんの
凹み彫刻の文章を書いていた。
D新聞社の依頼によるものだ。
一部はこのブログにも記したから、その文を読んで本人から
種々感想というか異論のメールがあった。
それもあって迷いが生じ文章も頓挫する。
彼の地オランダ司法省や歴史博物館の展示との比較が予算や規模
の相違として比較の対象にならない事、札幌市は札幌市として大
きな力が尽くされた事など当事者でなければ分からない事情が
分かってきたからである。
しかしながら、それはそれとして見る側の立場もあるので私は
それに徹する事にした。
その上で谷口さんが欧州を目指した10年前の行程を最初に記す
事にした。
札幌を当時恋人の彩さんとともに稚内からサハリンへ渡りロシア
を経てドイツへと向かった1ヵ月の旅である。
地理的には遠く時間的には早い南の空路を選ばず、海峡を越え地続
きで欧州と繋がる北路シベリア大陸横断の旅だ。
その道中の詳細な記録を今は奥さんの彩さんが日記の形で残している。
サハリンへ渡り最初に会ったロシア人に警戒心と不安を抱いていた異
国への亀裂・断絶感が旅を続ける内に次第に開かれ、深い心の共生・
継続感へと変化してゆく。
そして同時に今まで生きてきた都会での自分の卑小さ・断絶感を振り
返る記述が、今の凹み・亀裂を主題とする仕事を続ける谷口夫妻の心
の支柱となっている事を確かめてみたかった。
3年程前ここで個展を開いた時、オープニングで誰かが歌った中島
みゆきの「糸」という曲に涙したふたりがいた。
ドイツでいつも歌う歌であり、思わず涙が出たと谷口さんが言った。
この歌は共生と人の継続を願い讃える歌詞によって成っている。
彼の凹み・亀裂とは対極の歌である。
この原点がふたりの稚内ーサハリンーシベリアの陸路の旅で得た真の
凹みの旅だったのではないかと私は思った。
それを物語る彩さんの日記の記述がある。

 たった27年間の短い人生に起こる些細な出来事に目を奪われ慌て
 ふためいているうちに、自分の影を見失い、それを探そうともがき、
 ますます見失っていた自分はここにいた。・・・・いろいろなこと
 があって今があり、それは自分だけの選択ではなく、知らない選択
 も紡ぎ出された糸のようにつながって、これからもつながっていく、
 胸にこみ上がってきたのは、その圧倒的な時間を感じ、そこに自分
 がいることを確認できたからだろうか。

ヤクーツクからトポリーニのツングース民族の人達と交流しその踊り
の輪の中で彩さんは感じていた。
あの最初にサハリンへ渡った時感じた異邦人への不安。
 
 ・・・マフイアかもしれない、売りとばされるかもしれない。

この亀裂・断絶感とは対極の共生・糸で繋がる継続感の確認が生まれて
いる。
谷口顕一郎が凹みと名づける都市の亀裂をテーマに作品製作を続ける中
で、一方にこの旅のふたりのヨーロッパへの旅で得た継続・共生の経験
こそが作品を支える磁場ともなっている事を書きたかったのである。
地下人工空間に射し込む大通りの広い空の光。
そこに立つ暗渠の川の亀裂彫刻は、再びの空へ向かって咲く福寿草の黄
色の花のように太陽や空と見えない光の糸で光の布を織っている。
そんな姿をケン・アヤ夫妻のシベリアの旅のように見たかったのである。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503
 

by kakiten | 2015-02-08 16:14 | Comments(0)


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