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テンポラリー通信

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2015年 02月 03日

凹みの彫刻ー道行き(22)

谷口顕一郎さんの作品が明日新しい地下歩行空間広場に設置される。
昨年札幌彫刻美術館で本郷新賞を受賞した作品である。
この作品は旧琴似川を埋め立てた暗渠の道に浮き出た亀裂を基に
創られた。
谷口さんはこの亀裂を凹みと呼んで昨年秋ここで発表された。
今はベルリンを拠点に海外で多く活躍している作家である。
最近ではオランダ司法省の吹き抜け大ホールに作品を設置している。
さらにロッテルダムの歴史博物館にも同規模の作品がある。
谷口さんは路上の亀裂をトレースしそれを基に象ったパーツを蝶番
で組み立て立体化する作家である。
こうして何の変哲も無い路上の亀裂が作品として不思議な立ち上が
りを見せ新たな姿を現すのだ。
人工的な地下歩行空間にその対極にある路上の亀裂はどんな風景
を与えるのだろうか。
欧州では「創造的な個性と、折り紙のような日本の伝統が結びつい
て神秘的」と評されているらしいが、札幌ではどんな評価が生まれ
るのだろうか。
<折り紙>という指摘は多分日本では成されない評である。
蝶番で自在に折り畳む作品の表現法が外国では折り紙と映り神秘的
だったのだろう。
私には彼が好んで使う作品の色・黄色に興味がある。
地下から盛り上がり貫き出る路上の亀裂。
その発生の原因は色々あるだろうが、多くは地上から見えない地下
の地層から引き起こされたものと思える。
暗渠化した川の地層歪みもその一つの原因と思う。
地下深くからアスファルト化された平らな表面に時を隔てて顕れる
もの。
そこに自然と人間社会の相克・対峙・境界の徴を感じるのだ。
色について言えば、腐れ雪の下から春一番を告げる福寿草の色彩
黄金色の黄色である。
しかし福寿草は腐れ雪の間から咲いても、あくまで土の中から
命を育むのであってアスファルトでは決してない。
雪という水分、土という自然の中から咲くのだ。
一方凹みという亀裂はアスファルトという塗り込みの人工的
厚塗りとの相克の中からスムースで平らに表面化された頭上
を突き破って顕れるものである。
このある種の凶暴さ激しさは福寿草の生命の強さとは違う<切
れる>ような暴力性が感じられる。
亀裂を凹みと言った時には隠されるある凶暴なの力のような
ものがある。
それは自然のもつ恐ろしさ、自然そのものと対峙した時感じる
恐怖・畏怖・脅威のようなものだ。
谷口顕一郎の作品が保つもうひとつの魅力というかその視点に
あるものは、人間の自然を押さえつける強力とそれに対峙するも
っと強力な自然の力の直接の現場、その切れ目の修羅である。
福寿草を思わせる黄色の亀裂が、スマートでスムースな巨大地下
歩行空間に逆さに根を張るように設置された時、それ自体が自然
と都市の対峙する最前線の象徴として、人間と自然の美しい界
(さかい)を失いつつある現代への警鐘として存在するような気
がする。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2015-02-03 16:34 | Comments(0)


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