寒さも増して街では黒っぽい服装が増える。
特に女性は時代の先端のファッションを装う。
地下鉄や電車に乗る機会が増えて特にその足元に目が行く。
先の尖った靴に黒のロングソックスかパンタロンのような
無駄の無いシャープな足元が多い。
時代の価値観を象徴するようにスピードがあって余計な物
のないシャープな鉛筆の芯の先のようなスタイルである。
毎日切れ目の無い熊フアンの会場にいて、熊のずんぐりし
たスタイルとその色が多くは黒である事を思った。
熊フアンには若い女性も多い。
そのファッションは黒の網タイツに先の尖った靴の人もいる。
熊の色と形とは対照的なものである。
この女性のファッションに代表される新幹線のような鋭角的
な無駄の無い直線的な価値観と熊の保つずんぐりした黒とは
ふたつの異なる価値観の象徴ではないのかと思った。
もし実際に熊が街に出没すれば大騒ぎになる。
しかしその危険な熊が木彫りとなれば愛される存在となる。
木彫りの熊は、自然(野生)と人間社会の緩衝物としてある。
緩衝物とはもっと広い意味で言えば緩衝地帯=故郷・里山とも
いえるだろう。
人々が木彫りの熊を愛するのは、自然と人間の緩やかだった
時代へのノスタルジーなのではないだろうか。
人間と自然の間が緩衝地帯を喪失して鋭角的な破壊の時代への
どこか後ろめたい贖罪とノスタルジーがこのふたつの黒と形の
共存にはあるような気がする。
ずんぐりしてどこか緩い動きに見える木彫りの熊。
先端の尖った鉛筆の先の芯のような黒いソックスの足。
このふたつの黒の様態の共存に人間の一元的には量れない価値
観の存在を見るのだ。
山里稔展は、その編著「北海道木彫り熊の考察」とともに読売新聞
全国版書評にも取り上げられ全国から反響が寄せられている。
先の尖った直線的なスマートな黒と並存するずんぐりした太い黒。
その対照的な黒への嗜好に木彫りの熊に潜む都市と自然の対峙を
感じるのだ。
*山里稔と木彫りの熊展ー11月30日(日)まで。
am11時ーpm7時。
*吉増剛造展「水機ヲル日、・・・」
12月9日ー1月11日
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
tel/fax011-637-5503