作家の生まれ育った江別という土地は、石狩川河口に近く
開けた場所である。
かっては大河石狩川を外輪船が行き来し、夕張鉄道と国鉄
が乗り入れ水運・陸運の要として栄えた所だ。
地名の元となった江別もアイヌ語でイ・プツ」からきたと
いう説もある。イ・プツとは(それの・入り口)即ち大事な
ところへの入り口を意味していると語られている。
そうした地形上の特色と近代における水運・陸運の要地とし
てあった江別市だが、今は札幌の郊外住宅地としてかっての
面影はもうない。
前回の秋元さなえ展では、この江別の地に移住してきた明治
の記憶をこの地にある飛鳥山という地名に求めて移住者の故郷
である東京・北区の同名の小山を尋ねその相互訪問を主題とし
て作品化した。
これは・・からの移住者の視座<immigrant>の追体験
であり、同時に・・への移住者であるemigrantの確認でも
あっただろう。
今回の「橋を渡って」はその行為がより具体的で鮮明な百葉近い
葉書の形をして具現化されている。
大河石狩川に架かる大橋を渡って対岸の異郷に渡るただそれだけ
のプロセスが一葉一葉の葉書に橋桁のように記されているからだ。
前展と違うのはこの移住者の<・・・から><・・・への>さらなる
比重の変化である。
人は何処から来て何処へ行くのか。
そんな根源的な問いを、橋ひとつ超える事にも深い意味があるように
移動を移住を見詰めている。
ここには<移>だけが肥大した時間とは違う時間が流れている。
自らの生まれ育った場所の地形や地名に拘って、そこからもう一度
自己自身を再構成し解き放っていく、そんな純粋な作品行為を
葉書一葉一葉の精神の端桁として感じるのだ。
そして手造りの黒い台座となる机にもその架橋の強い意志を思う
のである。
*秋元さなえ展「橋を渡って」-10月28日(火)-11月8日(日)
am11時ーpm7時:月曜定休。
*山里稔と木彫りの熊展ー11月18日ー30日
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
tel/fax011-737-5503