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テンポラリー通信

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2014年 08月 22日

冬の軒下ーポプラー・葉月(12)

広島県の土砂崩れの被害が連日報道されている。
自然の恐ろしさをあらためて思う。
この自然の猛威に対する畏怖感を我々は普段消してぬくぬく
と生きている方が多いのが実状だ。

1951年制作の黒澤明の映画「白痴」の背景は当時の札幌
が舞台である。
この映画に描かれた札幌の風景について先日聞かれる事が
あった。
映画自体はドストエフスキーの同名の原作をロシアから札幌に
置き換えて翻案して映像化したものである。
そのロケ地として札幌の風景があり、今は無い多くの建造物と
ともに映し出されている。
人間の内面の奥の暗い狂気や情熱が冬の札幌の街の風景と重な
って物語は進む。
この札幌のロケ地となった場所のほとんどが都心部であり、その
ほとんどが今は無い。
駅前の鉄道管理局の堂々たるドーム状の屋根、煉瓦造りの五番館
電車道にラッセル車の走る表通り。
そしてさらに印象的なのは三船敏郎扮するロゴージンの家赤間家
の在る裏通りの風景である。
屋根が迫り雪が深い。
氷柱が太く軒下を圧している。
冬という自然が凶器のように氷柱の形をして迫ってくる。
この映画はその意味では冬という自然への畏怖が風景としては
主役になっている。
危険で怖ろしい畏怖の対象としての冬。
そうした自然が軒下に、屋根の高さに日常的に在った時代。
そうした街の中の自然との接点をこの映像は、残しているのだ。
表通りの堂々たるモダーンな建築物にも必ず屋根が見える。
裏通りにはより風土としての容赦ない冬が軒下を深く雪と氷柱で
貫き道を埋めている。
冬という自然への畏怖感が間違いも無くまだこの街に日常的に隣
り合っていた時代のシーンなのだ。
現在の同じロケ地にはもうその畏怖感は見あたらない。
裏通りの風土は消えて人と物の搬入口になり、表通りは地下通路
と高層ビル群が立ち並び、屋根も軒下もない街となった。

自然との接点である屋根や軒下を持たない街が、進歩と発展だけ
で解釈できるかどうかはよくよく考えてみなければならない。
つい前の時代まで直に自然と接する事の畏怖・敬意を街も人も保
っていたのではないだろうか。
黒澤明の遺した札幌の風景にはそうした街の記憶が埋もれている。

*中嶋幸治展ー9月23日ー10月5日
*秋元さなえ展ー10月28日ー11月9日

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2014-08-22 14:12 | Comments(0)


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