人気ブログランキング | 話題のタグを見る

テンポラリー通信

kakiten.exblog.jp
ブログトップ
2014年 06月 24日

境界への敬意ー星霜・水無月(12)

ビールとつまみを持参して、谷口顕一郎夫妻が来る。
写真家の吉田氏も合流して、ささやかな谷口さんの受賞を
祝う宴が始まった。
本人も余程嬉しかったのだろう。
報告と同時に何よりも一杯一緒に飲みたかったに違いない。
そこへ初の個人写真集「意識の素粒子」を出版した竹本英樹
さんが出来立てのその本を持って来てくれる。
短いライナーノートを私が書いて、それが印刷されている。
英文と仏文にも翻訳されて掲載されているのが、少し気恥ず
かしい気がする。
以前この通信にも試論として載せているものだが、こうして
あらためて印刷されると、もう少し長く書けば良かったかなと
いう気もしてくる。
しかしこの日偶然受賞と初出版のお祝いが重なり、初対面の
竹本氏と谷口さんたちはすぐに打ち解けてそれぞれの作品を
めぐり話は飛んでいった。

表現方法も表現手段も違うが、ふたりの表現に共通するもの
は、境界への敬意という事である。
谷口さんは路上の亀裂を素材にその形象を彫刻化して作品とする。
竹本氏は写真を通して、人と物との間の空気感そのものを作品と
して視覚化しようと試みている。
共通しているのは分別・整理され得ない間(あいだ)の世界、
境界への敬意とその境界という世界への飽くなき執着である。
野生としての自然に対して人はその中間に緩衝地帯としての
境界のような世界を創ってきた。
故郷というのはその総称としてあったものと思われる。
風景として残る田畑や里山、防風林は、その界(さかい)という
世界そのものと思われる。
そして風景だけではなく、人はそこに自然から得た様々な文化も
生んできたのだ。
現代はその境界という界(さかい)の世界への敬意が薄れている
時代である。
境界という世界をショートカットして切捨て、一方的な人間社会
のエゴを自然に対して行為する。
その結果故郷は消え都市化が蔓延していく。
原発の建設もまた都市化の延長線上の中にある出来事だ。
界(さかい)という境界への敬意を喪った現代に、境界の傷痕を
主題として作品を創り続けるふたりがこの日出会ったのは、偶然
ではないのかも知れない。

*谷口顕一郎展ー7月19日ー27日
*斉藤周展ー8月1日ー10日

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2014-06-24 14:04 | Comments(0)


<< 忘れられた石段ー水系・文月(1)      界川の亀裂ー星霜・水無月(11) >>