すっかりリタイヤーして自宅に沈没していた。
そこへドイツから帰国中の次回展示者谷口顕一郎さんの
本郷新賞受賞の連絡がある。
今回帰国の用件札幌国際芸術祭参加と本郷新賞ノミネート
の内一つは受賞で目的を達した事になる。
昨年秋界川ー琴似川合流部の暗渠路上を案内し見つけた
路上の亀裂を作品化したものが、今回受賞対象作品となっ
たようで嬉しい事である。
この道は卸売市場と競馬場が続く環状線沿いの道で、川を
埋め立て環状線にした為地盤の下のズレが川の流れのように
顕在化している場所なのだ。
川の水は見えないけれど、秋には蜻蛉が対で風に乗り小さな
水溜りに尾を揺らしている、そんな場所である。
川の水は見えなくとも風は流れ、蜻蛉が飛ぶ。
西南の源流の山並みが遠くに見渡せて、水の流れが車の流れ
になった以外はきっと変わらぬものがあるのだろう。
舗装された路面も時間の経過とともに地盤の下の暗渠の川の
地層のズレが顕在化して、路面に亀裂を生じさせ水の流れの
ような曲線を路面に刻んでいるのだ。
その中のひとつの亀裂を谷口さんは気に入って作品化したのが
今回の受賞作品のモチーフとなった。
川という自然と都市という社会構造との境を、作品という美で
境界の回路を創る事は、芸術文化の大きな役割である。
札幌国際芸術祭のテーマである「都市と自然」に先立って、札幌
彫刻美術館の本郷新賞にこの作品が選ばれた事はその意味でも
大きな意義がある事と思う。
都市化とは自然に対して破壊という事でもあり、同時に自然とは
都市に対して危険という事と同義でもある。
問題はその境を如何に聖なる回路として創造させ得るかが、いつ
の時代も問われている芸術・文化の本質なのだ。
次回ここで展示予定の明治の治水学者岡崎文吉の遺した茨戸護岸
工事の遺跡を作品化したものにも、同じ自然と人間の界(さかい)が
主題として大きな意味を保つと考えている。
ここでも谷口さんは水の炎のような岡崎文吉のコンクリートマット
レスの亀裂を採取し作品化したという。
百年前に川の蛇行を原点に考えた自然工法で治水工事を行った岡崎
が唯一遺した遺跡に水の炎を見るとは、今からとても楽しみな個展
ではないか。
*谷口顕一郎展ー7月19日ー27日
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
tel/fax011-737-5503