新作百号の大作2点に昨年数十年ぶりに発表された「自由群」
を版画にし製本された「部分群」7点セットの構成である。
注目すべきはやはり2点の百号大作であるだろう。
赤を基調とした皺のような無数の亀裂の画面中央に青の一点がある。
もうひとつは青を基調とした皺のような画面に赤が一点点っている。
一色突破。
細かく深い亀裂の中に点る一点の色。
この作品にタイトルは無いが、私には「星霜」という言葉が自然と
浮かんだ。
昨年作家活動の原点となった「自由群」を新作として何十年ぶりに
発表し、その瑞々しい色彩と線の勢いが少しも時の経過を感じさせ
無い新鮮な作品だったが、今回の作品は一転して佐佐木方斎の積み重
ねてきた時間を一色に集中させて内面化して表している。
昨年の「自由群」が復活の喜びに満ちた青春のような色彩であるなら
、今回の百号2点の青と赤はこれまでの幾星霜そのものを率直に吐露
したような深い作品となっている。
展示をちょうど帰国中の作家T氏が手伝ってくれた。
茨戸に遺された岡崎文吉の治水自然工法のコンクリートマットレスを
見て、新たな作品のイメージを膨らませて報告に来た帰路の事だった。
百年近い歳月に耐えて今も川の岸辺を守っているオリジナルなコンク
リートマットレス。
その表面に刻まれた亀裂と佐佐木方斎の作品の亀裂はどこかで通底し
ながら、T氏の心を撃ったように感じた。
岡崎式単床ブロッグが石畳のように蛇行する川の岸辺に伸びている。
その小さな亀裂の連続の向うに明治の夢と理想の亀裂もあるのだ。
そこを先日T氏とともに訪れ、札幌モノローグ紀行に記した歌人山田
航の短歌。
青い橋のたもとの岸の辺に眠る夢のかけらのかたまりが世界
方斎の夢の星霜もまたそうした夢のかたまり・世界となって輝いている。
*佐佐木方斎展ー6月3日(火)-15日(日)まで。
am11時ーpm7時:月曜定休。
*谷口顕一郎展ー7月15日ー27日
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
tel/fax011-737-5503