かって伏流水が至る所に湧いて、泉となっていたこの地。
それが植物園であり、伊藤邸庭であり偕楽園緑地であり、
清華邸庭であった訳だが、その伏流水に沿うように深く
根を降ろしてエルムの森が形成されていた。
そうした土地の記憶とともにこの地を生きようと試みながら、
ふっと人の心にもこの泉(メム)の記憶と同じように湧き上
る泉があると、今回の佐佐木方斎展を見て感じている。
2006年の春、花田和冶さんの案内で初めて佐佐木宅を訪れ
た時、方斎さんはベッドに寝たきりの身だった。
しかしそこで見た彼の1980年代の多くの仕事の痕跡は私の心
を捉え、それまでの彼への先入感を大きく訂正するものだった。
そしてこの年8月に最初の佐佐木方斎展「格子群」を展示する
のである。
同時に彼の編集出版した美術ノート全巻と、彼の企画した現代
作家展図録全巻も同時に展示し、疾風のように駆け抜けた’80
年代の軌跡をも併せて展示したのだった。
そこから始まった方斎さんとの7年に近い歳月を経て今回の新作
展がある。
これもまた人生の伏流水のような、深い生の流れの一点の湧く泉
のように感じる。
そうした再生の個展に相応しく、懐かしい人たちが初日に訪れる。
そしてそういう人たちがみな方斎さんの復活を喜び励まされ笑顔
を見せている。
作品というものにはそうした力がある。
作家本人にもそれは力を与える。
もうあのベッドに寝たきりの方斎はいない。
佐佐木方斎の復活は同時にこの場におけるこの私の仕事の再生と
重なって今がある。
我々もまたこの時代の伏流水に根ざした一本のエルムの樹。
その春楡の根と梢のように、光と水を求める存在なのかもしれない。
そんな友情を熱く感じながら初日が過ぎたのだ。
*佐佐木方斎展「自由群新作展」-10月27日(日)まで。
am11時ーpm7時:月曜定休。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
tel/fax011-737-5503