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テンポラリー通信

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2013年 09月 28日

札幌の屋根ー逍遥・長月(22)

今日も気持ちの良い秋晴れの空が広がる。
気温も昨日より暖かく風が柔らかい。

先日陳情書を持って初めて市役所の17階を訪れた時、窓いっ
ぱいに南西部の山並みの広がっているのが見えた。
空と地の境目が、稜線の輪郭でくっきりと浮かび上がっていた。
近くのTV塔が妙に貧弱に見えて、遠くの山並みの稜線が美し
かった。
あの都心のど真ん中で、あんなにも空を横切る稜線が見えるの
がとても新鮮に感じたのだ。
そうだよなあ、南西部に連なる山岳地帯から流れた多くの川が
伏流水となり泉となって、この札幌の扇状地を造っている。
そして東北部の石狩の海へと流れてゆく。
南から西へと連なる山脈群は、札幌の屋根のようなものだ。
この屋根の下に街があり、その街の屋根の下に人が住む。
そして街の向こうにある自然の屋根のような山脈を、あの高層
ビルの上階に立たなければ見えなくなっている現実に、ふっと
この時気づいたのだった。

時計台を足元に見下ろす最初の高層ビルが、この市役所のビルで
ある。
それから時計台は日本三大がっかり風景の一つとなる。
屋根の見えない高層ビル群がこの後市街地再開発事業によって続々
と冬季オリンピックまでに建設されていく事になる。
そして地下鉄の開通と同時に地下通路の拡充が始まり、今はチカホ
なる愛称まで付加して、さらなる大規模地下通路を完成させた。
それに伴い駅前通の街路樹も交換され、根の浅いオオバボタイジュ
に切り替えられている。
先哲山田修三さんが春楡の茂る札幌と讃えた風景は、この時消えた
のである。

 大通りの大木はだいたいこの木であったが、最近は駅前通りも
 チキサニの並木になった。このごろは、隠居して東京暮らしで
 あるが、ときどき戻って来て、こも聖樹の並木が育ってきた姿
 を見て、ああ、いいな、と思うのだった。
 もっともっと、春楡の茂る街にしてほしい。

   (「春楡の茂る札幌」-1986年刊「アイヌ語地名を歩く」
     所収)

山脈が大地の屋根なら、街の屋根は建物のそれであるだろう。
さらにその下に住む人間にとってもうひとつの屋根とは、木々の梢が
空と地を繋ぐ屋根なのかも知れない。
この両方の屋根を喪失して、地下街・チカホがあり高層ビル群がある。
この現実を今は亡き山田修三さんが見たら、なんと言うだろう。
そして、<ときどき戻って来て><ああ、いいな、><もっともっと>
とは決して口にはしないだろう。

  堪えがたく
  よろこびとさびしさとおそろしさとに跪く
  いのる言葉を知らず
  ただわれは空を仰いでいのる
  空は水色  
  秋は喨喨と空に鳴る

*「一原有徳と佐佐木方斎ー小樽・札幌」展ー10月6日(日)まで。
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-9斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2013-09-28 13:24 | Comments(0)


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