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2013年 07月 25日

春楡の街ー道程・文月(18)

 木の葉が落ちて、、雪の降る札幌の情緒も好きだが、春、夏、
 秋と、街の春楡の梢に葉の茂る札幌は何ともいえなく好きだ。
 春楡は別名赤だも、札幌の人が英語でエルムと呼んでいる樹。
 北大生が「エルムの梢」と歌うあの樹である。
 地質にあっているのか、札幌には特に多く、それが街のしっと
 りとした風格を作っているのであった。
 ・・・・
 元来地下水位の高いところを好む木だそうで、札幌扇状地の
 終わりのところ、つまり大通りから北にはいたるところにメム
 (泉池)があり、その周辺に特に群生していたという。
 ・・・・アイヌ語の名はチキサニ。単語に分解するとチ・キサ・
 ニ(我ら・こする・木)となる。古くは春楡の木片をこすって
 火を作ったところから出た名だという。・・・ 
 大通りの大木はだいたいこの木であったが、最近は駅前通りも
 チキサニの並木になった。
 ・・・ときどき戻って来て、この聖樹の並木がそだってきた姿を
 見て、ああ、札幌はいいな、と思うのだった。
 もっともっと、春楡の茂る札幌にしてほしい。

  1985年「春楡の茂る札幌」山田秀三ー北海道新聞社刊

札幌をこよなく愛したアイヌ語地名研究の碩学山田秀三さんの28年
前に残された文である。
何度か引用させて頂いているが、「緑の運河エルムゾーン」を思う
時にいつも定点のように思い出す文なのだ。
最後に<最近は駅前通りもチキサニの並木になった><ああ、札幌は
いいな、と思うのだった>と書かれているが、最近はその反対の様相
となって、駅前通りの春楡の並木は大規模地下通路建設の所為もあり
別の樹木に切り替えられているのだ。
地下水位の高さが地下通路拡大で損なわれていったからである。
植樹された並木ではなく自然の大木が、清華亭の庭に立つ春楡であり、
植物園ー伊藤邸庭ー北大構内と続く森にある。
これがメムと呼ばれた泉池を水源とする高水位の地下水脈を土壌とし
て川と森を形成し、春楡が茂っている。
まるで皇居の中に残る古い武蔵野のように、旧帝国大学系の広大な敷地
には緑の運河のようにこのエルムゾーンが残され、さらに1万4千㎡の
伊藤邸敷地の庭に清華亭・偕楽園緑地跡が繋がってあるのだ。
これらのゾーンは泉池(メム)で繋がる川の道でもある。
その水脈を90mの高さの高層ビルで遮断する事は、このゾーンの春楡
の古木の命を絶つ事を意味する。
さらなる水位の低下が予想されるからである。
都市化の荒波の中辛うじて生きている春楡の巨木群は、根を地上に見せ
ることなく深く深く水脈に触れて生きている。
駅前通りの植樹された並木の街路樹とは違う自然の巨樹である。
それを守ろうとせずして、どう私達は札幌を愛した山田秀三さんに顔を
向けることが出来ようか。
街路樹の春楡が育つ姿を見て、あんなにも喜んでくれた碩学の先達者に
対して申し訳が無いないではないのか。
アートボックスやスイーツ・アートとか、アートというカタカナばかり
が箱物の中にひとり歩きして、肝心の風土に根ざした文化がカルチャー
ボックスの植樹・並木と化している。
それらはある時期が過ぎれば掘り返され埋められる花壇の花のように、
一時期の美観の為にしか存在しない。
来年の国際美術展のテーマは「都市と自然」だそうだが、ここに本当の
自然は措定されているのだろうか。
この札幌をこよなく愛した優れた先達の<ああ、札幌はいいな。>という
心からの気持ちにどう今応え得るのか。
そう問いかけたいのである。

*収蔵品展ー8月11日(日)まで。am11時ーpm7時;月曜定休。
 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503
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by kakiten | 2013-07-25 15:33 | Comments(0)


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