2階天井部分を抜き露出した吹き抜けの壁、柱部分のペンキ塗りに入る。吸込み
が多くすぐにペンキの色が褪せる。そうこうしていると下で配線の整理をしている
中川さんが声を出した。来いよと言うので降りていく。古い配線が何回もの模様替
で複雑に絡み合いひとつひとつ確認しながら必要な配線に絞り込んでいく作業は
結構地味だが大切な基礎作業である。タイガーボードの下に砂壁がありこれが本
来の家の原形である。その土壁と後の時代のボードの間から電線のようなものが
延びている。”引っ張ってみれ”というので一瞬手を伸ばしたが、妙に生っぽく感
じ思わず手を引っ込めた。死んだ鼠の尻尾だった。ボードを剥がすとフンが多量
に出てきた。大きな鼠だった。二十日鼠かと思ったが白く大きい鼠で福鼠と言うらし
い。ここの主だったんだろうなあ。タイガーボードに挟まれて土壁との間で逃げ場
なく死んだのだろうか。さらに天井に近い部分のボードを剥がすと欄間の柱にお札
が貼ってあった。「家内安全」とか書いてある。そういえば昔そんな光景をよく見た
気がした。もともとは和室で床の間のある部屋だったと大家さんが言っていたから
その後洋服の製縫場やお弁当屋になってその都度改装し建材も時代を反映し上
から被さるように在った訳だ。白い福ねずみはその犠牲である。建物の建材の違
いはそのまま近代と現代の違いでもありその狭間にあったねずみさんの死骸は暗
示的であった。玄関の陽光のあたる所に置いて弔った。鼠と雀はこうして見ると似
ているなあと思った。空に雀消え、地に鼠消え時代は一体どうなっているのかと思
う。福鼠といわれ、大黒さんが担ぐ袋に寄り添っている白いねずみもかってはつい
最近まで人間と親しい生き物であった訳で雀の鳴き声で朝目覚める事も最近減っ
てしまった。図らずも今回一軒の家の歴史に立会いいい時間の経験を頂いていた。