新琴似の賀村順治さんの家に行く。彼は本来歌人で20代で「狼の唄」という歌集
を出版しこれは今や幻の名歌集である。福島泰樹の短歌絶叫コンサートの創生
時から関り今は浜松にいる桑名正和さんと共に福島さんの北海道ツアーには必
ず参加してきた友人である。今回私の店の退去に伴なって大半の荷物は彼の自
宅倉庫に預かってもらっていたので新しい場所の報告と経営上の相談を兼ね訪
ねたのだった。麻生の地下鉄駅に着くとすでに迎えに来てくれていた。それから
彼の自宅まで歩いた。途中新琴似神社に立ち寄りしばし境内を見た。保存樹と
看板の立てられた樹が在りその見事な枝ぶりは遠くからすでに目立っていたが
その樹はなんとハルニレだつたのだ。見渡すと立派なこの神社のあちこちにハ
ルニレがあった。昨日書いたブログに北大寮歌として引用した<エルムの梢>
が晴れた春の空に正に雄々しく聳えていたのだ。其処を出てしばらく歩くと畑に
出た。村田さんという数少ないこの地の農家のものという。「ここは偉いよ、頑張
っているよ」と賀村さんが言った。その畑の向こうにゆったりとした稜線をみせて
手稲山山系が広がっていた。山頂のTVの送信塔が軍艦のマストのようにも見
える。いつもは南東の方から見ているので山の姿が違う。そして昨日書いたば
りのハルニレと手稲山に迎えられたようで嬉しかった。安春川に沿い賀村さん
の家に着いた。お預けしてある荷物を見てから庭のキトピロがもう大きくなって
いるのをみて少し吃驚した。家に入り奥様も交え今後の事を種々相談した。そ
の内ビールとスキヤキが出てそれに庭のキトピロが供されてなにも言う事がな
かった。苦境の時黙って荷物を預かってくれ今またこうして相談に応じてくれる
賀村順治さんもまた侠気のひとである。帰りに奥さんがスキヤキの弁当を作っ
てくれた。美味しい漬物と一緒にまだ暖かい弁当を持って心もお腹も満杯にな
って辞した。しばらく胃が滅多にない栄養で吃驚しているようだった。帰って熊
谷透さんがひとりポツンといたので彼にも分けてあげふたりで美味い美味いと
食べた。ハルニレと手稲山のようなゆったりと豊かな時間だったなあ。胃も心も。