数年前ひとりの青年が青森・弘前から札幌へと移住して来た。
その時彼にはこの地の風の色がオレンジ色に感じた。
そして彼の最初のこの地での個展はその風がテーマとなった。
紙をオレンジ色に染め、柔らかく繊細なフォルムを創り、風を
形象化する。
中嶋幸治さんの造形の基本となるフォルムである。
やがて札幌で結婚をし、敬愛する音楽家のCDを初デザインする
事で封印していたもろもろの垣根を超える事があった。
そしてこの若い移住者の内なる何かが変化してきている事がある。
それが今回の作品に顕われている。
左手は風をスカーフのように掴み束ね、右手はタクトを握り前方に
向かい音を発しようとしている。
そうした造形を2階吹き抜け正面に飾ったのだ。
この作品の為に選んだ一首、
楽器庫の隅に打ち捨てられているタクトが沈む陽の方を指す
<楽器庫の隅に打ち捨てられているタクト>とは、きっと中嶋さん
自身の移住者としての心の内なる位相そのものでもあっただろう
と思う。
同じ北国でありながら、津軽海峡を越えて感じた風土は明るい
オレンジ色の風をした異国である。
そして自分はかって音楽を望み今は美術にも首を突っ込んでいる。
近いけれど遠い津軽と札幌。
近いけど遠い音楽と美術。
そのどちらもが自分でありながら遠いものが内側に在る。
そんな移住者の心の葛藤がふっと解きほぐれた一瞬が今回の
作品に凝縮してある。
それが風を掴む指の形の造形に顕われている。
そして前を向いて突き出されたタクト。
このふたつの手の指のフォルムに中嶋幸治の今が集約されて
息づいている。
異郷の風を掴み、自ら声を発する心の位相を今やっと掴んだと
いうこの地に発する呼気の場のようなものを感じるからだ。
自らがもう風となってこの大地に触れたね、中嶋くん・・・。
それは君自身が新たな風土となって、生きてゆく事を指している・・。
*山田航歌集「バグ・チルドレンをめぐる変奏」展ー3月31日(日)まで。
am11時ーpm7時:月曜定休。
:野上裕之(彫刻)・佐々木恒雄(絵画)・藤谷康晴(絵画)・中嶋幸治(造形)・
アキタヒデキ(写真・文)・久野志乃(絵画)・森本めぐみ(造形)・高臣大介
(ガラス)・ウメダマサノリ(造形)・吉原洋一(写真)・メタ佐藤(写真)・森
美千代(書)・竹本英樹(写真)・藤倉翼(写真)+及川恒平(ソング)
:3月23日午後5時~鼎談:田中綾×山田航×及川恒平
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503