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テンポラリー通信

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2013年 03月 16日

この世で生きてゆきますー風の夢(11)

初日、あらためて全作品を見ていると、選んだ歌とともに
その作家の顔が浮かんでくるような気がする。
それぞれの生の現場を感じるのだ。
歌の作者の山田航さん曰く、歌人仲間では選ばぬ思わぬ一首
が選ばれていて新鮮だ・・、と。
その事は純粋に歌の言葉に触発されて自分の内部を作品に
形象している個々の表現の真摯さを裏付けてもいる。
展示の一番最後に届いた一番遠い処に住む尾道の野上裕之
さんの作品もそうした作品である。
選んだ一首は、

  貴意に沿いかねる結果となりますがわたしはこの世で生きてゆきます

送られて来た彫刻の作品は、仮面である。
裏側は朱色をして表面は白く彩色され少し内側の赤が滲んでいる。
この作品は正面左に展示され、藤谷康晴さんの「・・・ひとり老狼はゆく
無冠者として」の作品と佐々木恒雄さんの「切り傷は直線をなす・・アフ
リカの幾つもの国境にも似て」の顔の作品と3点並んで展示された。
先に藤谷さん、佐々木さんの作品を設置して最後に届いた野上さんの
作品を展示したのだが、偶然とはいえこの3点は正面で迫力を生む結果
となった。
3人が3様に顔が顕われて作品となっていたからだ。
野上さんは身体性の濃い作家である。
学生時代は体を使ったパフォーマンスを多くし、転機となった2003年
の蝋燭を使った「Nの昇天」では、自らの体の周囲に蝋燭をめぐらせ
その炎と溶けた蝋の痕跡を見せる作品もあった。
その翌年には「世界焼成」という木型に鉛を溶かし幾つもの形を創る
身体の直接性からより抽象的な世界へ深化する作品へと変わりつつ、
3年前の「鳥を放つ」では鳥とそれを見上げる犬の彫刻へとその世界
を変貌させてきた。
そして今回の作品では再び身体性の濃い、より内面的な身体の顔の表
現として創作された。
山田航の一首に触発されて初めて、身体の中でも一番の中心である
顔にその素材を求めたのだ。
その顔とは、<貴意に沿いかねる結果・・・><この世でいきてゆきます>
と意識される仮面と実面の挾間を生きる二重性のような生の意識化とも
思える。
彼がこのように虚と実の身体を顕した事は今までなかった事である。
日々の労働と日常創作の深い願いが、この仮面の作品には血のように
滲んで感じられる。
この一種シニカルで斜めに構えて見える一首を選んだ事で、逆に野上
裕之の真っ直ぐな生への直視が滲んいるような気がするのである。
この仮面作品を創作した事自体が彼自身の<故地(ホームランド)>へ
の確かな意思である事を証明している気がする。
それはひとつの歌と彫刻作品の稀有な出会い、とも私は思う。

*山田航歌集「さよなら バグ・チルドレンをめぐる変奏」展ー3月16日(土)
 -31日(日)am11時ーpm7時:月曜定休。
 :野上裕之(彫刻)・佐々木恒雄(絵画)・藤谷康晴(絵画)・アキタヒデキ・
 (写真・文)・森本めぐみ(造形)・高臣大介(ガラス)・吉原洋一(写真)・
 藤倉翼(写真)・中嶋幸治(造形)・メタ佐藤(写真)・ウメダマサノリ(造形)
 ・森美千代(書)・竹本英樹(写真)+及川恒平(ソング)
*鼎談・田中綾×山田航×及川恒平ー3月23日午後5時~
 引き続き及川恒平ライブ

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2013-03-16 13:13 | Comments(0)


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