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テンポラリー通信

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2013年 03月 09日

一転また吹雪ー風の夢・弥生(6)

昨夕からまた猛吹雪。
雪融け道は一転して凍結し真っ白な世界。
春めいた服装をしてきたMさんが、寒い寒いと呟く。
 
 屋根よりも深々と・・・白い路を歩く。

山田航歌集「さよなら バグ・チルドレン」からそれぞれが一首を
選び、彫刻や絵画や写真等で表現する作品が集ってきた。
誰も今のところ重複する歌はない。
そのどれもが選んだ人を彷彿とさせるものばかりである。
この事実はやはり山田航歌集の保つ豊かさ、同時代性を証明
するものと私は思う。
例えば尾道で船大工をしている彫刻家の野上さんの選んだ歌は、

 貴意に沿ひかねる結果となりますが
 わたしはこの世で生きてゆきます

また網走で漁師をしながら画家を続けている佐々木恒雄氏は、
 
 切り傷は直線をなすアフリカの
 幾つもの国境(くにざかい)にも似て

それぞれ作家が公私共に多忙な中、作品集を読みそこから
一首を選び自分の作品でその世界を創り出す。
これは追体験でも跡付けでも再現でもない。
詩句によって喚起された自らの今に繋がる表現である。
それぞれの置かれた状況の中から、時代へ通底する回路の
発掘ともいえる試みなのだ。
そこである者はオホーツクの海に生き、ある者は瀬戸内海の海
に働く。
またある者は石狩の港湾労働に勤しみ、ある者は深夜の勤務
に従事している。
また普通の主婦の人もいれば、通販のコールセンターに勤務
する人もいる。
生活は皆違い、その上でそれぞれが絵画・造形・写真とさまざま
な領域で表現行為を持続して続けている。
その生活の現場から、山田短歌の一首が選ばれて自らの表現
体として提示されるのである。
それぞれの生活の現場を掘り下げ、そこを故地(ホームランド)
として作品が生まれる。
その創造の杭の一点が、一編の歌から始るのである。
時代の氷結した表面を掘り下げワカサギ釣りをするかのように、
一点穴を穿ち同時代の湖へと表現の垂心を降ろしてゆく。
この<inter-相互・間ーの>架橋の試みにこそ、この展示の
深い意味がある。
私たちの時代は、故郷や故里から<郷>も<里>も喪失して
ゆく時代である。
私たちは自らの足下に、故<土>を耕していかなければなら
ない。
その足下の一片の<土>として、表現の母胎となる感性の土
がある。
それぞれが選んだ一首の歌とは、その感性の一片の土その
ものでもあると私は思う。
その一片の故土から如何なる花が実が生るのか。
それが今回の展覧会の真の主題なのだ。
草や花や木が繁るように、この展覧会が小さな同時代の森となれ
ば良い。

*今田朋美×久藤エリコ展「シロアトーハツゲンⅡ」ー3月10日(日)
まで。 am11時ーpm7時。
*山田航歌集「さよならバグ・チルドレンをめぐる変奏」ー3月16日
 (土)-31日(日)
 参加作家:野上裕之(彫刻)・中嶋幸治(造形)・藤谷康晴(絵画)・
 佐々木恒雄(絵画)・藤倉翼(写真)・高臣大介(ガラス)・森美千代
 (書)・森本めぐみ(絵画)・及川恒平(ソング)・梅田マサノリ(造形)
 メタ佐藤(写真)・久野志乃(絵画)・アキタヒデキ(写真)以上。

 テンポラりースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2013-03-09 13:13 | Comments(0)


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