2013年 02月 20日
昨夕の道新夕刊に前夕張美術館館長の上木和正氏が 「夕張美術館崩壊から一年」と題した一文を寄せている。 昨年の豪雪で屋根が崩れついに雪の重みに耐えかねて、 夕張市美術館が崩壊。 その一年後の気持ちが率直に綴られている。 美術館の壊れ方を見て、建物自体が仮設作品だったのか、 夕張そのものが国家と資本が百数十年かけてプロデュース したインスタレーシヨン(架設空間展示)なのではないかと 思った。・・・・20世紀のスクラップ&ビルドは、現在と将来 にその意味と意義を提起し続けるだろう。 財政破綻のまちに図書館はいらない、美術館などもってのほか という道庁、総務省の方針にあらがうすべもなく閉館が決まる。 そんな中なんとか夕張リゾートが指定管理者となって持ちこた えていた。 収蔵庫の作品たちは地下に在った為無事だったという。 優れた炭坑全盛時代の作品たちの行く末もさる事ながら、美術館 という建物の崩壊に象徴される都市の崩壊を思うのである。 「財政破綻のまちに美術館などもってのほか」という都市構造とは 何んのか。 この対極に存る東京圏で来月催される「生息と制作」という展覧会 では、如何にこの夕張も属する北海道が美術にマイナーな環境で あるかが前提となって企画されている。 この前提で考えれば、北海道は勿論の事東京圏以外の被災地も 含めた日本のほとんどの地域が、マイナーな条件下にある事にな るだろう。 財政破綻の夕張市と対極の豊かな都市が東京圏とするなら、これ を前提として美術環境の優劣を考える思い違いに都市帝国主義的 病根がある。 故郷を喪失し続ける自らの故地(ホームランド)を棚に上げて、イン フラの整備条件の優位性に信を置く過信が問題なのだ。 私の乏しい経験からいっても、1980年代の石炭産業衰退時の 夕張という都市は、充分に美しい豊かな場処であった。 近代産業遺構建築物とそれを取巻く自然の環境は、スクラップ& ビルドの急激な変化の進んでいた明るい廃墟のような札幌の都市 化に比して、多くの作家たちに刺激的な風景を提示してきたので ある。 その一端は2009年11月に企画された目黒美術館「’文化’資源 としての<炭鉱>展」において、展示されてもいる。 岡部昌生のフロッタージュ作品、吉増剛造の長編詩「石狩シーツ」、 佐藤時啓写真作品等がその時展示された作品である。 これらは当時都市としては対照的な道を歩んでいた札幌と夕張と の明暗の回路から生まれた作品たちでもある。 夕張を舞台としながら、明るい廃墟としてスクラップ&ビルドの激し く進む都市というが切り口に存したのだ。 スクラップ化の進む夕張とビルド化の進み札幌とが都市の裏表・ 明暗のようにひとつとして捉えられていたのである。 ふたつの都市は夕張川で繋がる同じ石狩川の地域にある。 しかし冬季オリンピックの時代を境にして、このふたつの都市の 在り様は対照的なものとなる。 石炭から石油へのエネルギー資源の転換による街の衰退と冬季 オリンピック開催による都市の膨張と、ふたつの都市は全く両極の 位置にあった。 しかしながらこの時ふたつの都市に共通して進んでいたのは、本 来の故郷の空洞化というランド喪失の共通性である。 都市化の肥大によって喪失するもの、都市の衰退によって喪失 するものとが、この時その故地の固有性の喪失という一点におい て激しく近似し、すれ違っていたと思う。 いってしまえばスクラップによる故地喪失と、ビルドによる故地喪失 である。 東京圏自体も実はそうしたスクラップ&ビルド化によって巨大化し た都市圏である。 その弊害は、今回の3・11以降にも顕著に顕われている。 地震による液状化、渚現象は、谷地や浜の埋め立てによる都市化 の結果である。 さらに今回明らかになった東北の電力基地化はその象徴ともいえ るものだ。 消費電力のメガロポリス過剰集中を補う供給基地として、地方が ある。 地方が地方としての固有性を喪失して、大都市圏の電力補助地位に 組み込まれて在る。 東北には東北の固有の故郷があり、首都圏の東京には武蔵野という 一地方の故地があった筈である。 都市と故郷の喪失というこの相対峙する命題に真摯に向き合う事が、 今一番問われる事ではないのか。 上木氏の<夕張そのものが・・・架設空間展示なのではないか>と いう問いに、そう応えるものがあるのである。 *秋元さなえ展「121年前のよろこび」-2月21日(木)まで。 am11時ーpm7時。 *今田朋美・久藤えりこ展「ハツゲン」-2月24日(日)-3月2日(土) テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2013-02-20 14:48
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