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テンポラリー通信

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2013年 02月 14日

風土という入口ー燃える如月(8)

会場正面に人体を象った下半身が描かれている。
内側に川と思しき水色の曲線が流れ、所々に緑の
塊が描かれている。
これらは恐らく江別の地形、その川と丘を表している
のだろう。
吹き抜けを抜けた下半身の上部には、江別の飛鳥山
から見た景観の写真が貼られている。
そして1階左壁には作者が双眼鏡を片手に丘の上から
周囲を見ている2葉の写真が貼られている。
ひとつは東京北区王子の飛鳥山の上、もうひとつは江別
・飛鳥山の上である。
ふたつの似た地形を身体に置き換えて俯瞰し形象化した
輪郭が正面に大きく描かれた人体であるのだろう。
ここに地形という自然を身体に置き換えて自らの故郷を
凝視しようとする今回の展示のコンセプトを見る事が出来る。
大きく人体の描かれた正面2階の反対側には、プロジェクタ
ーによるふたつの画面が投影されていて、それらはふたつ
の飛鳥山の上から撮られた映像なのだ。
遠く離れたふたつの丘から見える風景が、ひとつの画面
に並列して流れ、時と場所を超えてひとつの視界に被さ
って映される。
121年前にみた光景を現代に甦らせて、時空を超える
視点を試みているかと思えるのだ。

作者が用意した資料の中に121年前の風景に関する
記述がある。

 ・・・何しろ、周り一帯が原始林です。おそろしく大きな
 樹林が至る所にそびえ立ち、熊笹が生い茂り、とても
 すぐには畑に変えられない土地でした。
 しかも、さむさをはじめ厳しい自然、さらに熊や鹿が近
 づいてくる恐ろしさ、ヤブカ、スズメバチなどなどで今
 では想像もできない危険があったのです。

    (江別の屯田兵ー江別市郷土資料館)

圧倒的な大自然の中で人は、営々として開拓の労苦を重ねてゆく。
小さな石狩川傍の丘は、本州の故郷を思い出させると同時に自然
と人間の世界のthe republic(界・さかい)として心の砦ともなって
存在したかと思えるものだ。
自然そのものの中では、人間は生きてはいけない。
集落を作りその中に囲繞地として自然の脅威から守られたゾーン
を造らねばならない。
その人間社会と大自然の緩衝帯として、この丘の存在も在ったと
思われる。
人間化した自然、自然化した社会として、里山ひいては故郷として
この飛鳥山のような風景があった筈である。
秋元さなえが故郷の江別に見詰めた小さな丘飛鳥山とは、幻視し
て見ればかって故郷と呼ばれたものの残像を遺すものと思える。
121年前に移住して来た人が遠い地の故郷の丘を見、さらに遠い
時代の<アスカ>という古代を木魂させて、数百年の時空を超える。
それはここ北海道では僅か121年前の自然と人間のせめぎ合いだ
が、<アスカ>という地名の木魂によって、さらなる時間の蓄積を
導き出す戸口ともなっていく。
秋元さんの視座が、故郷の江別から発して今後さらなる如何なる
視界を保つかは不明だが、故郷の風土を身体として見詰め直す
真摯な回路は今後も変わらず続けて欲しい、と願う者である。

*秋元さなえ展「121年前のよろこび」-2月12日(火)-21日(木)
 am11時ーpm7時:月曜定休。
*今田朋美・久藤エリコ展「ハツゲン」ー2月24日(日)-3月2日(土)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 te;/fax011-737-5503

by kakiten | 2013-02-14 14:29 | Comments(0)


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