吉増剛造氏のイヴェントの日は、昼から白い闇。
飛行機の欠航相次ぐ中、鈴木余位さんはじめ道外から
この日の為に来た人たちはなんとか無事に到着した。
そんな外から見た印象を、駅からタクシーで駆けつけた映像
作家の石田尚志さんが二次会で私に語ってくれた。
街外れの斜め通りの暗い道に、ここだけが赤々と光溢れている。
表のガラス戸は中の熱気で曇り、白く輝く光となっている。
内部で映像の点滅と人の影が蠢き、建物全体が光で揺れている。
”なんですか?ここは?”と、タクシーの運転手さんが呟いたと言う。
そう石田さんが話してくれた。
途方もない・・・時間が、とんでもない時間へと転位していたの
かも知れない。
昨年6月から10月まで東京都現代美術館で特集された石田尚志
展があった。
そこにグスト出演したのが吉増剛造である。
このふたりのパフォーマンスは物凄いオーラに満ちたイヴェント
であったと聞く。
そのふたりがこの日札幌の小さなギヤラリーに顔を揃えていた。
そして今月出版されたばかりの慶応大学講義「無限のエコー」を
編集した編集者もそこにいる。
その他の道外勢も併せると、ある中心の渦がこの札幌の場末の
小さな片隅に集結し、この日燃えていたのである。
その熱気が白い吹雪の闇にぽっかりと浮かび燃えていたのだ。
これはもう建物空間が星のようになって燃えていたのかも知れ
ないという気が今している。
一日過ぎて少し振り返るように18日の夜の事を思い出していた。
今朝は晴れて、冷え込んだ青空に真っ白な世界が広がっている。
朝いつものように、モニター3台の画像をセットする。
真中に「燃え上がる銅板小屋」と題された昨年暮の吉増剛造展の
鈴木余位さんの画像が流れ、左右には冬の石狩河口と望来海岸
の海の映像が流れる。
音声は、画面の石狩の風と波の音が響いている。
朝、外から反射する雪の白い光で満たされた静謐な空間。
あの暗闇に浮かんだ熱気の燃える渦の時間が、今は夢のように
感じられるのだ。
会場中央に置かれた草稿256葉の大冊は、黙々としてまるで
冷えて固まったあの日の流れ星の隕石のように、深々と存在し
ている。
この途方もない詩人の念力が凝縮したかのような原稿の束は、
まだ未完の半分の道程という。
「’古石狩河口から書きはじめて」と副題された詩草稿は、もう文字
の範中を超えてその筆跡は音符のようでもあり、絵画のようでもある。
呟きの小文字は時に小川のようでもあり、時に溢れて渓流ともなり
時に大胆に大河のように大文字ともなる。
また時にコラージュされた紙面もあって、一枚として同じものはない。
今年2月から書き始められた草稿256葉は、ほぼ毎日書き続けら
れたものとなるわけでそれは今日も書き進められているのだろう。
その詩人の呼気吸気が熱く時に白く、会場に満ち溢れて流れている
かのような気がするのだ。
*吉増剛造展「ノート君~’古石狩河口から書きはじめて」
:吉増剛造(詩草稿)・吉原洋一(写真)・鈴木余位(映像)
12月11日(火)ー1月13日(日)am11時ーpm7時・月曜定休。
正月1,2,3日休廊。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503