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テンポラリー通信

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2012年 11月 15日

雪は見ずー緋月・11月(12)

まだ街に雪は見えない。
競馬場の長い壁はまだ燃えるような緋色である。
その壁に沿った道を自転車が走る。
濡れた路面にタイヤが吸い付いて快い。
落ち葉が舞い上がり、音を立てて左右に散る。
北大の構内に入り、エルムトンネルの森を抜ける。
巨木は緑と赤の葉を深く繁らせて、空を覆っている。
黄泉の国の門のようだ。
秋が深くなると、人はふっと死を想う。
死が近くなる。
朝、仏前に向かい祈りを捧げる故人の名が多くなった。
妻・母・父・祖父・伯父・師・友人たち・・。
いつの間にか毎朝祈る習慣が付いた。
無力な自分のせめてもの供養なのかも知れない。
両手を合わせ祈る形に、樹の立つ姿を感じる。
過去と未来を結ぶ両掌の内なる今。
現在(いま)とは、この両掌の内に息づく幹のような、
鼓動する何かである。
その事の確認の為に、祈るという行為があるようだ。
今朝は初めてYこと、Nの名前を頭に浮かべて祈る。
本来ならば、弔辞の一つも述べたかったのになあ。
昆虫や蝶の標本が沢山遺されていたという。
野山を駈けて蝶を追い、昆虫を取っていたという昔聞い
た話は本当だったのだ。
知っている積りでも知らない部分が、人には沢山ある。
人はどこで人と会い、どこで未知のまま別れるのか。
死は時にそうした事を、一気に総括して知らめてくれる。
そして人の一生を一瞬トータルな姿として浮き彫りさせ
てくれるような時がある。

死を通して、人は人ともう一度向き合う事がある。
昆虫少年よ、一度君は野山を見失ったけどけど
結局君は君らしく生きたよな。
今、そう思うよ。

それが、今朝の祈りの最後の言葉。

*収蔵品展ー11月25日(日)まで。am11時ーpm7時:月曜定休
*吉増剛造展ー12月11日(火)-1月13日(日)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2012-11-15 13:30 | Comments(0)


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