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テンポラリー通信

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2012年 11月 09日

緋の衣纏うー緋月・11月(8)

テンポラリースペースの壁が妖しいまでに緋色に
覆われている。
枯れて落ちてゆく葉とともに、天地が染まる。
灰色の濡れた空気に紅が滲む。
晴れて空気の乾いた時よりも綺麗だなあ。

この鮮やかな赤を見ていて、現在展示中の岡部昌生展
に置いてある初期の絵本の絵を思い出した。
1973年発行の絵本「きたきつね」である。
絵は岡部昌生によるもので、きたきつねの親と子ぎつね
の成長を北の大地の四季の風景に描いたものである。
その中に夏から秋へかけての何葉かに印象的な赤い花
の咲く緑の野の絵がある。
この緑野と赤い花の美しい色彩に、今年の岡部×港千尋
展のカタログ「色は憶えている」(2012年5月)の表紙写真
「全村避難の日の飯館村」が重なって見えたのだ。
この写真でもやはり赤い花が画面手前に咲き誇り、奥には
無人のビニールハウスが広がっている。
40年近い歳月を経て交錯するこの赤の色彩は何なのか。
あえてこのふたつを会場に並列して展示をしてみた。
一方は彼の故郷にある原風景のような遠い野と赤い花。
一方は昨年起きた原発事故後の無人のフクシマの村。
一方は描かれた絵画であり、一方は実際に撮られた写真
である。
にもかかわらず、この赤と緑の深い共通性は何なのか。
私はそれが岡部昌生の保っている赤という色彩の保つ力の
由縁と感じている。
この根室の原野に咲く描かれた花の赤さこそ、岡部が幼少期
空襲という被爆した赤い空を描いた初期の油彩「人形六つ」の
赤に通底する赤だったように思う。
40年近い歳月を経て、彼はその赤にフクシマで出会っている。
見えない放射能に犯され無人となった野に健気にも咲く赤い花。
キタキツネが子育てをし、無邪気に遊びやがて親離れ子離れを
してゆく道東の原野に咲く赤い花。
このふたつの赤い花の交差は、今こそ岡部自身の内側で問わ
れて意識化されるべき色彩である。
この作家の原点は、赤をトニカとする画家であると私は確信
するのである。

*収蔵品展「岡部昌生初期作品を中心に」-11月11日(日)まで。
 am11時ーpm7時。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2012-11-09 12:26 | Comments(0)


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