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テンポラリー通信

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2012年 07月 20日

呼応する場ー幻月・7月(15)

中橋修展「内包ー呼応する場」が始る。
昨年の春香山山麓の展示記録、そして円山のK-HOUSE展示記録
とを併せて壁に展示されている。
地理的にもこの場の展示はふたつの場を繋ぐ意味がある。
さらに空間的にも春香山山麓は自然の森の中であり、K-HOUSEは
モダーンな別荘風住宅で、その意味でもここの昭和レトロの雰囲気が
残る空間はそのふたつの空間の中間に位置する。
1階南壁にはその位置を示す地形図が貼られ、3ヵ所の位置を示す赤い
ピンが刺されている。
さらに空間中央を黒と赤のアクリルの柱が吹き抜けを突き抜け、床には
黒く着色された土饅頭のような円い塊が点在している。
素朴さとモダーンさの融合した不思議と落ち着く展示だ。
K-HOUSEのようなモダーンな住宅空間に非常に計算され尽くした
立体造形で構成する知的側面と春香山山麓の自然の只中に造形物を
少年のような純粋さで置く素直さと両面を持った作家のふたつの側面が、
ここでひとつの融合を試みているかに思える。
作家はこれまで紀伊国屋画廊などビルの近代的空間を主とした場所で
展示をしてきたが、春香山山麓の自然空間での展示経験により新たな
展開を今回試みたと思える。
それは自然空間と人工的な空間を繋ぐ方途と思われる。
その意味でもここの蔦の生い茂る古民家的な木造建築は、その場として
相応しい場であったかと思える。
昨年の春香山山麓での展示には私も見に行ったが、この時の中橋さんの
活き活きとした少年のような表情を忘れる事はない。
その表情からは都会のギヤラリーでは見る事のない、山や森とともに自然
と一体化して展示を試みている活き活きとした姿があったからだ。
泥まみれになって穴を掘り、そこを通過してある体験を参加者と共有する。
それに比し造られた立体は非常にモダーンな近代的な直線の形状を保ち、
このふたつの対比も心に残っていたのだ。
この極めて知的な部分と素直な少年のような純粋さとのふたつのギヤップ
を作品は率直に顕してもいる。
今回のここでの展示は、そうした大人の都市性と内なる自然・少年性を繋ぐ
新たな回路の挑戦としても位置付けられる気がする。
現代とはもう一度自然と向き合い、人類の来し方を考える時代でもある。
多大な消費を主たるエネルギーとする巨大な都市型帝国主義は、その周囲
の地方をいわば消費の植民地化として自然をないがしろにし破壊してきた。
フクシマや福井のように東京・大阪の大都市圏の為に電力供給基地として
地方の自然環境を蹂躙してきた。
今回の3・11以降の原発事故の本質は何よりもその事実を顕している。
どう自然と向き合うか。
この事は私たちが今最も真剣に考えなくてはいけない問題なのだ。
従来の都市神話はすでに破綻を見せ始めている。
中橋修さんが個として向き合っている都市性と自然性とは、彼の成人性と
少年性というナイーブな肌合いを保ちながらも、本質的にはこの問題と向き
合っていると私には思えるのだ。
<父っちゃん坊や>ではなく、ふたつの両端を結ぶ<青年中橋修>の挑戦
は、今始ったばかりである。

*中橋修展「内包ー呼応する場」-7月20日(金)ー25日(水)am11時ー
 pm7時。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2012-07-20 13:02 | Comments(0)


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