人気ブログランキング |

テンポラリー通信

kakiten.exblog.jp
ブログトップ
2012年 06月 17日

曳きあうようにー命月・6月(11)

美術家の山里稔さんが来る。
彼は明治以降の熊の木彫りの歴史を調べている。
明治初期に八雲の移住してきた徳川家の殿様が、外遊先のスイス
ベルンから持参した熊の木彫りが出発点となって定着した北海道の
熊の木彫りを年代順・作者・土地等をこつこつと調査している。
アトリエは熊の木彫りで埋まり、熊牧場のようだ、と笑う。
北海道の代表的な土産物として熊の木彫りはあるが、実は明治以前
にはなくアイヌの人も最初から彫っていた訳ではない。
むしろ最初はサムライの冬の稼ぎにと、移住した徳川の殿様が考えた
内職のようにして始ったようだ。
それが本来熊を神として見、偶像として彫る事の伝統のないアイヌの人に
も時代と共に定着していく。
そして当初はみな手彫りの個々の作品でもあり、和人、アイヌを問わない
共通の稀有な素材でもあるが、土産物という低い位置から彫刻作品として
見られる事が少ない存在だった。
しかし山里さんが集め系統的に分類された作品群を見ると、明らかにそれ
ぞれの彫りは違い、個性的である事が解る。
円空のような彫りもあれば、非常にリアルな熊もいる。
和人とアイヌでも彫り方が違う。そして産地の場所によっても違うのである。
私のもつ先入感では、熊は鮭を咥えるか担ぐかしていて、あるパターン化
したイメージがある。
しかしそれらは後期の機械彫りの土産物のパターンであって、当初はそんな
ひとつの型では括れない多様性に満ちている。
明治以前にはなく現代では廃れかけて、近代の僅か何十年かの間に集中し
た不思議な彫刻作品といえる。
これは北海道の彫刻史の盲点とも思えるものだ。
土産物という低い位相で見過ごされてきた有名・無名の作家たちの熊。
それらを系統的に調べ資料として文書化し、作品写真・実物を蒐集し記録
している山里さんの仕事は、非常に興味深いものだった。
そこで友人の中川潤さんを紹介し、彼のアイヌ学の知識と樹海工房主宰の
木彫りの技術から山里さんの蒐集に協力してもらう事にした。
昨日初めての対面があり、ちょうどその場に居合わせたミュージシアンの
若林和美さんも同席してふたりの話が弾む。
すると若林さんも身を乗り出して、実は私の家にも熊の置物があり、いつも
顔を撫でて大事にしているの、と言う。
彼女は怪訝な顔をされるので人には余り話した事がないけれど、実は熊の
木彫りの愛好家であるという。
この日偶然出会った3人は、目を輝かしてしばし熊談義に耽ったのである。
若い女性と熊のようなおっさんと3人で、熱心に熊の話に熱中している何とも
不思議な光景だった。

熊という北の森の生態系の王を主題とする彫刻。
その本家であるスイスではもう森が消え熊も消えて、今は木彫りだけが遺され
ている。
しかしこの北海道には、まだ森も熊も残されている。
しかし僅かこの百年の間に木彫りの熊の歴史は、闇に埋もれ消えなんともし
ているのが現状である。
和人もアイヌも区別なく同じテーマで彫り続けた稀有な熊。
北海道の近代を語る上で貴重な歴史である。
山里さんの卓抜な着眼と真摯な努力に敬意を表し、協力したいと思う。

*森本めぐみ作品完成展ー6月19日(火)-24日(日)まで。
 am11時ーpm7時:月曜定休。
*藤谷康晴展「WILD BRIGHTNESSー幻視の狩人」-7月5日(木)ー
 15日(日)。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2012-06-17 14:32 | Comments(1)
Commented by よし@ネットマスター at 2012-07-07 20:37 x
熊の木彫りも奥が深いんですね。素晴らしいです。


<< 潮のようにー命月・6月(12)      絵図のようにー命月・6月(10) >>