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テンポラリー通信

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2012年 06月 16日

絵図のようにー命月・6月(10)

昔、知多半島の先にある源義朝が憤死した場所を訪ねた事がある。
お寺があってそこに、義朝の一代記の大きな絵図が描かれて展示されて
いた。
案内の老人が長い棒で部分部分を指し示しながら、順番に義朝の生涯を
語っていく。
何故そんな事を思い出したかというと、森本さんの大作を見ながらふっと
そんな物語性を絵に感じたからでもある。
昨日描き込まれた絵の下部には、炎をかざした小さな人が幾人も描かれ
水原に赤い炎が点滅している。
画面上部を左右に大きく横切る白い橋梁のような、白狐のようなものの内側
にそれらは在って、これまでの人生の人間模様、その人の炎のようにも見え
るからである。
大きく横切った白い曲線の左上の方は、これと対照的に茫々として果てしな
い空間が広がっている。
一方右半分下内側には、燃えるようなケシの赤い花と炎と人が点在している。
この構図は作家の過去と未来を表してもいるような気がする。
昨日数人の人が集まり、この絵の前でこの人は誰だ、こっちの人は誰だ、と
面白がって当てずっぽうに当てはめて楽しんでいる事があった。
森本さんも興に乗って、これは誰それよと応えていた。
源義朝の絵図は後世の人が義朝を偲んで一代記を描いたものだが、この
森本さんの絵は本人が現時点での過去と今を未来へ向けて描いたものである。
しかし何故か、みんながこの絵の前で部分部分を指さしながらあるストリーを
自然に語り出した時、この大きな絵画がある種絵図のように物語性を帯びて
ある事に気付いたのである。
巨視的な視座と微視的な視座とが共存するこの絵画は、正に中世のあの
巨大絵図と同じ構造のようにも思えるのである。
森本めぐみという作家は、大技と小技ミクロとマクロの両面を保ち、優れて
物語性も保つ絵図の作家でもあるとあらためて思う。
茫々として広がる見えない未来に向かって、噴火口の内部のマグマのように
過去と現在が燃え盛っている。
そのあるがままの出立前夜の風景が、今の彼女の一代記のように絵図となっ
て顕れている。
来週以降完成した展示を誰よりも見詰めるのはきっとこの絵図の作者本人で、
一番楽しみにドキドキするのかも知れない。

*森本めぐみ展ー6月17日(日)まで。am11時ーpm7時。
*同上作品完成展ー6月24日(日)まで。
*藤谷康晴展「WILD BRIGHTNESS-幻視の狩人」ー7月5日(木)ー15日
 (日)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2012-06-16 12:54 | Comments(0)


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