雨かな、と思って外に出たら細かな雪だった。
灰色の濡れた細雪。
傘をさして歩く人にも雪は見えず、姿は濡れて黒く沈んでいる。
滑り止めの黒い粉末が路面を斑(まだら)にして、融けた雪の路面を
さらに灰色にしている。
齋藤玄輔展もあと一日。
大雪山の麓、旭川の結晶するような内陸の地。
寒気厳しく夏は暑さも厳しい処と聞く。
寒暖の差が激しい、石狩川の源流域に広がる盆地。
そうした気候風土と齋藤玄輔さんの世界は、どこか交錯している気がする。
久野志乃さんの海、森本めぐみさんの火山。
それぞれが海の青、火山の赤であるような色彩の彩(いろ)がある。
齋藤さんにはその色が、凝縮する結晶の彩(いろ)のように感じる。
植物を素材としながら、暗闇に植物の有機的な命の姿を光に投射する。
押し花の枯れた明視の陽画を暗視に転換して陰画として浮き上がらせる。
その篭(こも)り方が、旭川の盆地のように濃いのである。
雪の結晶が天からの手紙であるならば、この植物の結晶はどこからの
手紙であるのか。
大地の水からなのか、天の光からなのか。
その両方と天地を繋ぐものが植物であるならば、齋藤さんの今後の展開も
その両方に深く関わってくる筈である。
植物の部位にその美を偏らせる事なく、植物総体の有機的な美しさを作品の
主体に置いて表現された斎藤さんの作品には、植物の総体の有機的な生命
の姿と根底において深く関わってくるものと思う。
植物は光を求めて空に根を張り、水を求めて地中に枝を伸ばす。
それが植物の生の姿である。
その総体を光の暗視の内に浮かび上がらせた今回の作品は、結晶する姿だけ
で完結するものではないと思う。
もし草花紋のデザイン美に閉じた世界で停まるなら、植物からの手紙はもう届か
ないで、美の紋章となって終る。
*齋藤玄輔展ー4月1日(日)まで。am11時ーpm7時。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503