日が長くなり、陽射しも強く柔らかになってきた。
壁の上下に長く伸びる縦長の大作に久野さんが描き込んでいる。
キャンバスに本人の姿が入り込んで、一体になっている。
制作している青い作品は、春の柔らかい光に映えて光と色彩と人が
溶け込んで浮き上がる。
本人は描く事に夢中で気付かないだろうが、少し離れて見ていると
作者の身体自体がもう絵筆のようになって絵の中にいる。
横を水平に過ぎる構図の作品が多かった作家だが、今回の作品は
縦に流れる線が主体である。
その分作家の位置が作品の中心に入り込んでいる。
岸辺の視座が水中の視座に、渦中の視座へと変わってきている。
これは大きな変化だ。
そしてもうひとつ小品が同時に描かれているが、それは卵形の作品で
この形も中心が真ん中に収斂される構図である。
きっと生来これまで世界に対して用心深くナイーブに見据える事の多か
った作家は、ここに来てより世界の中心線へ、久野さんの今までのモチ
ーフに即せば、水の端から水の中へとその位相が転位して来た感じが
する。肩の力が抜けて水中に見を任せ泳ぎ出したのだ。
滞在制作2日目の朝。
花田和治さんの道立美術館個展最終日。
これを見て来た久野さんが、凄く良い、と興奮気味で飛び込んでくる。
花田和治さんの対象を見据え突き抜ける抽象に、今久野さんが取り
組んでいる描き方の大きなヒントが刺激となって与えられた、と思う。
いい時期にしかも最終日に見ることが出来て本当に良かった。
この日は圧倒的に昨日から今日本を覆っている東日本大震災・フクシマ
原発事故の3・11とはまた違う、3月11日だった。
花田和治さんの個展最終日の3・11に感謝しなければならない。
*久野志乃滞在制作展ー3月10日(土)-15日(木)
*斎藤玄輔展ー3月20日(火)-4月1日(日)
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
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