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テンポラリー通信

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2012年 02月 22日

エルムの鐘ー如月(17)

ハルニレが繁るこの街を、かって人はエルムの都と呼んだという。
エルムとはハルニレの事でもある。
その美しい立ち姿は札幌だけではなく、原野に一本立つハルニレの四季を
記録した写真集もあるほどだ。
広大な北大構内、あるいはその南側に位置する北大植物園の敷地には
今も原生林のその姿を垣間見る事ができる。
北大の第二農場モデルバーン内には、時を知らせた当時の鐘が今も保存
されている。
そしてこの鐘の名前は、エルムの鐘という。
今回高臣大介さんがテンポラリースペースで展示した紡錘形のガラスの
塊は、中まで純粋無垢な透明なガラスの塊で、拍子木のように叩くと良い
音がした。
上から吊ったこの作品は呼び鈴のように、揺れてぶっかると美しい音が
響いたのだ。
これはガラスのエルムの鐘のようで、清華亭の水滴のような吊りガラスと
呼応して、両方の場所で鳴らしたら良いね、と提案したのだった。
澄んだ音色のガラスの塊が、見えない泉の流れを音で繋ぐように感じた
からだ。
もうひとつの今回の新作に、「メムシリーズ」と名付けられたグラスの作品が
ある。これは透明なガラスの厚さの相違が、横から見ると底に水が入って
いるかのように見えるグラスである。
底の方のガラスの厚い部分と中間から上の薄い部分のガラス層の違いが、
光を屈折させあたかも水が入っているかのように見えるのである。
この「メム(泉)シリーズ」も、今回の展示の傑作だったと思う。
清華亭外庭は、この場の真の主たるハルニレの巨樹と野外の自然光が
主役である。
雪の中の作品たちは、ひたすら静謐に一日の時の流れの中に佇んでいる。
野外と室内という対照的な展示の場を繋ぐのが、阿部守さんの鉄と木の祠
と高臣大介さんのガラスのエルムの鐘だったと思える。
ひとつは祠の中で燃えている火でハルニレが繋がり、もうひとつは鳴り響く
澄んだ鐘の音で水と繋がったのだ。
清華亭の周囲には高層ビル群が林立し、もうその水源は涸れてしまった
けれど、この火と鐘の音が遠くふたつの場所を繋いで、この場の生き証人
たるハルニレの巨樹と見えない泉の流れを再生する鎮魂の主題ともなっ
たと思うのである。

*阿部守(鉄)×高臣大介(ガラス)「野傍の泉池(ヌプサムメム)」展
 清華亭外庭ー2月26日(日)まで。am9時ーpm4時。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2012-02-22 12:35 | Comments(0)


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