横浜のY出版のY氏から電話が来る。
吉増さんと親しく多くの吉増剛造の本を出版している人である。
滅多に電話など来ない人だ。
”喜んでいたよ~、ゴーゾーさん!”と言う。
帰京してすぐ電話があったという。
喜ぶ、というよりもっと強い言葉だったと思うが、聞き忘れた。
今回の個展と歩行・対話の一日が、吉増さんにとって多くの収獲の
あった事が、Y氏との会話から熱く感じられた。
Y氏はその事実を伝えたくて、わざわざ電話をくれたのである。
作品展をする事は、作品を媒介として作家と他者が関わる事である。
その関係性は一方通行では決してない。
作品の磁場が作家と受け手を相互に弾きつけ影響しあう。
その事が新たな次への可能性を開くのだ。
従って作品展示の場は同時に、作家と見る者の変容を可能にする磁場・
トランス(函)でもあるのだ。
作品はその函の中で、作家の手を離れて独自の存在となり、磁極となる。
作品を通した他者の心の反応が、作品を回路として作家の心にも新たな
磁極を生む。
今回の場合は、ともに一日冬の緑の運河エルムゾーンを歩いた小さな
サッポロシーツの旅もまた大きく影響していると思うのだが、同時にこの
銀河のように宙に立つ展示会場の効果もあったと思える。
こんな展示は初めて、と驚き喜んでいた作者がいたからである。
打刻し突き抜けた銅板から洩れる銀河のような彩光。
そこに響く「石狩シーツ」の朗読のサウンド。
これらが渾然一体となって作家自身自分のものであって自分のものでは
ない世界に立ち会っていたのかも知れない。
ともあれ作品展を媒介として、作家が新たな経験を生み、新たな地平を生む
としたなら、今回の吉増剛造展は作家自身にも大きな意味を保った事となる。
そしてその意味は、作家だけに留まらず参加し見た我々すべての磁極にも
及んで、経験の中に深く関わるものでもある。
*吉増剛造展「石狩河口/座ル ふたたび」-12月31日(土)まで。
am11時ーpm7時:月曜定休。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503