薄皮を剥くようにふっと浮かんでくる記憶の断片。
口に鈴のようなものをくわえて、後ろを振り返り何か喋れと眼が要求している。
あのイシカリのサッポロシーツを歩いた後の宴。
言葉は出なくて、ただ下を見ていた。
するとさらに鈴が鳴り、こっちを振り向いて話を促がす吉増さんがいた。
短い銅板を縫って長巻一枚にした4m78cm。
その若林奮さんの作業と同じという訳でもないが、
わたし(たち)の歩行の糸で縫ったサッポロシーツ。
若い詩人のFさん、若い歌人のYくんの湯気の匂い立つような言葉が溢れる
前だった。
一夜明けて、その時の記憶が甦る。
あの夜、結局私は何も話はしなかった。
それでいい。
あの行程自体が、縫い込まれた銅板のように存在している。
無言でいい。今もそう思っている。
17年前の「石狩河口/座ル」の行程は、南の奥の界川源流からの道。
そして今回の「石狩河口/座ル ふたたび」の行程は、伏流水の湧く泉池の
道・緑の運河エルムゾーンの道。
その歩行の糸で縫いこんだシーツ。
そこに私の、あるいは私たちの沢山の言葉が縫込まれていたから。
そこを歩きその後の打刻の響きを待っていたのは、むしろ私だ。
ヒカリのカワラ。
そう発せられた一言を聞いて、只静かに頷いて目を下に沈めた。
またひとつ新たな回路が開きましたね。ヨシマスさん。
1989年界川游行の鬼窪邸から。
またひとつ往還するように<・・座ル ふたたび>。
*吉増剛造展「石狩河口/座ル ふたたび」-12月31日(土)まで。
am11時ーpm7時:月曜定休。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503