2006年 04月 09日
ー「この間のお店でまた飲もうね」と約束しても、そのお店はもうなくなっている というのが、最近何度かあった。とにかくすごい勢いでお店が消えている。 (堀田真紀子「狭い土地から」) ー都市はいまひどい空襲を受けている。空襲とはたいそうな言い草かもしれな いが、わたしの想像力のなかではそうした言葉しか思いつかない。 (鷲田清一「夢のもつれ」) 昨日引用したふたつの文章の出だしである。ともに現実の街の様相から出発して いる。<とにかくすごい勢いでお店が消えている><都市はいまひどい空襲を受け ている>。現状の観察にそれほど大差があるわけではない。ただその後の展開は 空襲という想像力と自分の本領をしっかり守っているお店と目が転じていくことで結 論は随分と違ってくる。堀田さんはその後「私が通勤で利用する・・うなぎ一筋のう なぎ屋さんだけだ。」とお店の区別化そして自分の本領という勤労の視線で自己完 結の方向に閉じていく。鷲巣さんは京都、東京を例に都市の構造上の障壁へと視 線を深めていく。それが商店街だけでなく住まいの問題とも関る都市の構造として 問題を提起する。堀田さんは札幌の街を鷲田さんは東京、京都を見ていて都市の 違いがあるようにも思えるがそれは私の経験上では関係ない事だ。同じなのだ。 首都古都それも現代という時代のうえでは関係ない事だ。地方も中央もない。< 顔の見えない暴力><ひどい空襲>は日常のなかにあるリアルな事実である。そ の事実に気づきどう対峙するかどうかの問題である。このふたりの違いはそのまま わたしたちの今を映し出している。個と個の問題に閉じていくか、個と他の問題に 開いていくか。
by kakiten
| 2006-04-09 18:32
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Comments(4)
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T.nakamura
at 2006-04-09 23:39
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おそらく鷲田さんは己のメッセージが他者に届く着地点をしっかりと弁えた上で考えを述べられている。その着地点へ向けて、それから外れないように周到に軌道が描かれている。そのツボを十全に心憎いくらいに心得ている文章である。で、私の批評精神はそのツボに向かって小さな石をひとつだけ投げ込みたい気分なのである。
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T.nakamura
at 2006-04-09 23:41
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「都市はいま空襲を受けている」という誇大な心象イメージは間違っている。主題になっていることは「空襲」という曖昧な意味不明な言葉で表現すべきことでは決してないのだから。
われわれ日本人はあの60年以上前の大戦時のアメリカ軍のB29による都市空襲の悲惨な体験以来、一度として、空襲という事実を経験はしていない、きわめてまれな「文明国」である。私たち戦後世代は鷲田さんも含めてあの戦争も知らないし、空襲ももちろん知らない。その人が今になって「空襲」という言葉を脅しの言葉に使っている。誰の何に向けて脅しているのか。「空襲」に抵抗できなかったわれわれ自身の戦後の無残な生き方に向かってではないか。そのなかにはおそらく鷲田さん個人も当然ふくまれる。であるなら、これは鷲田さんの生き方そのものへの自己批評の文章になっているのか。そのように読み取れるなら、戦後日本人としての救いはまだある。
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T.nakamura
at 2006-04-09 23:42
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「これ以降、・・・たがいの暮らしぶりを見ることもなくただ各階で同じレイアウトの空間に生きているという抽象的な事実をしか共有してこなかったひとびとが、コミュニティの意識を共有することは至難である。」「が、いま地域を見舞っているのは、人々の過剰なまでの分断である。」「社会の近代化とともに貧という共通の定めに協同してあたる共同防貧という力が殺がれてゆき、貧は孤立化してくる。昭和のはじめにそう指摘したのは柳田国男である。」という文体から聞こえてくるのはそうではないぞ。棚の上においているぞ、自分の生き方の細々とした事実を。 私は鷲田さんの批評文が小林秀雄の批評文と位相をことにしていると感ずる。身銭を使い切っていないぜ。鷲田さんは。
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kakiten
at 2006-04-10 12:25
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>T・nakamuraさま
鷲田清一論を私は主眼にしてはいません。ただ偶然一日違いで載った ふたつの文章が店の喪失という現状から始ってその展開の相違を自分 に引き寄せ語ったつもりです。<空襲>はオーバーな表現とも思いま すが実際にここ仮事務所のある古びた一軒家から、首を四段階位曲げ 見上げるマンシヨンの建設時を思い出すとあながち誇張とも思えません 。以前あった田上義也さんの傑作鬼窪邸が壊され、巨大な杭が打ち込まれ美しい庭も木も消え去るのを見ていてそう思いましたから。多少の誇張 はあっても私には許せることばでB29とかタイムスリップする話ではあり ません。 |
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