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2006年 04月 08日
小さなヒビが沁みる時がある、失速する時がある。風を見る。心の旗を立てる。 旗棹を射す丘を登る。そんな時25年も前の旗印が甦ってきたのだ。<燃える 街角器の浪漫since1897>。気恥ずかしいといえば気恥ずかしい文句。 ただ灰塵と志(こころざし)の<燃える街角>は今も変わらない私の風の旗だ。 この間sichihukuさん父娘から心励まされるコメントを戴く。また石狩のMさん からも心暖まるメールを戴いた。感謝です。そんな時今週の水曜日と木曜日の 道新夕刊に掲載されたふたつの文章が心に残った。ひとつは「魚眼図」という コラム欄に載った「狭い土地から」という文章。<とにかくすごい勢いでお店が消 えている。ただいつまでも残っているお店もあってそれには共通点がある(中略) 時流に媚びないで、自分の本領をしっかり守っているお店。>そして19世紀の アメリカの思想家エマソンの言葉が引用される。<(先略)自分はわが身に与え られたつとめとしてぜひとも耕さねばならぬその狭い土地で、みずから汗水たら して働かねば、おのれを本当に養ってくれる穀物はただの一粒たりとも手に入ら ぬことを確信するようになる>従って情報が溢れて<ついきょろきょろしてしまう 今のような時代こそこの言葉を肝に銘じる必要がるんじゃないだろうか>という主 旨である。もうひとつは「夢のもつれ」というエッセイ。<都市は今ひどい空襲を受 けている。(中略)古い木造のたたずまいが連なる中京に20年くらい前から高層 マンシヨンが家並みを押しのけるように建ちだした。(中略)陽射しは阻まれ薄暗 いなか湿気がつのってゆく。寒暖をしのぐ古くからの知恵がみな死んでしまう。< 中略>京都の河原町には昔から有名な書店が軒を並べていた。梶井基次郎の 「檸檬」の舞台となった書店も最近カラオケ・ビルに変った>そして料亭は焼肉 チエーン店に時計店はゲームセンターに変りこれがバブル期以降の見慣れた 光景であるが<が、見飽きる前にこれがやはり都市の脇腹に突き刺されたドス であったことを忘れないでいたい>と書く。このふたつの文章の出だしはお店の 喪失という点では共通しているがその後の現実認識の展開は決定的に異なって いる。前の文章は自分の領域をきちんと守って働けという勤労思想に帰着するが 後の文章は「まち」の瓦解を現代の構造的な視点から捉え抉っていく。そして「ま ち」の瓦解を街の身体性の分断と捉え次のように指摘する。<コミユニテイの意 識というのはそれぞれの身体空間をあるいはまなざしを、日常的にゆるやかに 交差させるなかで生まれる。(中略)が、いま地域を見舞っているのは人びとの 過剰なまでの分断である。社会の近代化とともに「貧」という共通の定めに協同 してあたる「共同防貧」という力が殺がれてゆき「貧」が孤立化してくる、「貧」は つねに「孤立貧」という形をとるようになる。><立つこと歩むことをも不安がらせ 人びとをついに「失立」「失歩」へと追い詰める恐怖感。気がつけばわたしたちの 身体はそうした損傷(ダメージ)に深くむしばまれ、うずくまるだけで何の抵抗も できなくなっている。>そしてその前に<顔の見えないこれらの暴力を一つ一つ 推し戻してゆかねばならない。そうした「共同」の小さな抵抗のなかでこそ、身体 はいまいちど外に向かって開き><都市構造上の障壁をも乗り越えてゆく>と 書いている。私はこの鷲田清一さんの文章にひどく共感した。都市をひとつの身 体性として捉えその身体を分断する顔の見えない暴力とどう闘っていくかという テーマは私自身の今現在のテーマでもある。この時の「共同」という小さな抵抗 が時に「孤立貧」という小さなヒビとなっても在ったからだ。情報の溢れる世界を キヨロキヨロという視点で捉えるか、内側から構造として見据える視点から捉える か、ふたつの文章は店の喪失という同じ切り口から入りながら対照的な読後感を もつ。不漁の海を前にして山なんか行くな、己の領分を守れ情報にきよろきよろ するなと説くか、海の不漁を構造的に捉え漁師が山に木を植える行為を小さな抵 抗として理解し支援するか、どちらが現代の海の漁師へのエールとなっているか は自明の事だ。たとえそれが海でなく<まち>であっても情況は同じ事だ。海を 漁師から奪う構造的な暴力は都市の上にもある。<暴力は上から降ってくるば かりではない。地上でも見えない暴力が街に巣くい、地域の文化を滅ぼしてゆく 。>そして「孤立貧」という「失歩」「失立」のうちに<頭を抱え込んでうつぶし、うず くまる前に>自らの身体という旗を外に向かって今一度開かなければならない。 鷲田さんの文章は無言のエールとして、そう私には読めたのだった。
by kakiten
| 2006-04-08 15:31
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