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テンポラリー通信

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2011年 10月 05日

活版工房ライブー点と線(14)

移動式の壁の棚には鈍い色の鉛の活字がぎっしりと並んでいた。
その前に、活版印刷機械の作業道具が何台か置かれている。
さらに印鑑陳列棚、ガラスケース、作業台、事務机。
それらが雑多に並ぶ狭い店内に、いつのまにか多くの人が集っていた。
昨晩の日章堂印房酒井博史ライブ。
奥の小さな四畳半の小上がりは満員で、あとは店内のあちこちに椅子を
持ち出し腰掛け、椅子のない人は立ったままで人が溢れていた。
そんな中いつもより張りがあると思える声で、酒井博史のライブが始った。
やはりホームライブだなあ、声の伸びがいつもと違うと隣にいた友人と話す。
それから休憩を挟んで熱唱2時間弱。
時に柔らかくナーバスに、時に激しく怒るように、最後は声が嗄れる寸前まで
熱唱は続いた。
西区24軒の現在地に引っ越して、初のホームタウンライブ。
昨年来場者ゼロだった失意のショックを、見事に跳ね返したこの日だった。
聞きながら、私は5年前の冬札幌漂流時に彼の唄う「夢よ 叫べ」にどれ程
励まされたかを、思い出していた。
そしてこの日最後に唄った中島みゆき作「ファイト」の絶唱に心打たれていた。
そう・・多分、私だけではない。
昨夜来た人たちの多くが、それぞれの内に同じような感慨を抱いていたと思う。
狭い店内の棚にぎっしりと並んだ鉛色の小さな活字たち。
その活字たち造りだす活版印刷のように、心に刷り上るものがあった。
声という活字が刷った、声の印刷物のように。
自らの職場で、このようなライブが出来得た事の幸せを思う。
腕一本、声一本。
どちらもが、酒井博史の両輪の人生なのだろう。
時に時代遅れの活版印刷屋として、世間の辛い辛酸を舐めながら、
その辛苦が唄の肥やしになっている。
生活と唄う事が一体の、本人の生きる感性の裏打ちとなって在る。
その事が、この工房ライブで本当に良く実感されたのだ。
だから聞き手の多くは、自らの生活の奥の深い実感の場処で、彼の唄声を
聞いている。
普通の生活現場から立ち上がる唄声とは、いわゆるプロ的歌手の範疇では
捉えられないものである。
その唄声は虹のように固定のできない、危うく脆い夢のようなものかも知れない。
発声・技術・音階と、声が嗄れるまで唄う事に是非もあるだろう。
しかし本当にファインなものとは、何時だって虹のようで夢のような幻のように、
束の間の一瞬の輝きなのかも知れないのだ。
本来、生活という圧倒的時間の厚さ・重さの中では・・。

活版職人・印鑑職人酒井博史は、声と腕の両輪を人生の心と生活の糧として、
今後もその両輪の感性を全開して生き、貫いて行くのだろう。

それこそ本物の超(ファイン)職人(アーテイスト)としてだね・・・。

*森本めぐみ展ー10月12日(水)-30日(日)am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2011-10-05 14:18 | Comments(0)


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