5年前夏「常温で狂乱」で始った藤谷康晴展。
その時は、一番街南北の高層ビル群を精緻な構造物の細密画として、人も
看板も無い建物群が街路とともに縮尺され鴨居の高さに張り巡らされていた。
歩道を歩く人の目の高さで建物上部は切られ、立ち止り見上げる視座に
ビル群の高さは存在しなかった。
最初この作品を見た時、これは目の街へのテロだな、と思った。
等身大を超えるものを視界から切り捨てる事、パルコや三越といった表示を
消去し、ショッピングビルからショップ的な匂いを消して即物的な構造体のみ
を精緻に抽出する。
すると街は、壁の連続のように無機質に存在する世界となる。
この都心中心繁華街から、欲望の芽を悉く消去する目。
街から欲望の衣装を剥ぎ取り、ただの壁構造として高層建物群を描き出さんと
する作者の目の奥に篭もる容赦ない捨象の意思。
そして描き出されたものは、超リアルな細密画による「常温」と捉える都市風景で
あり、構造体としての即物的なビル壁の街路であった。
都市の欲望に絡まるビルの高さの誇示や商品への華やかな誘惑。
それらを捨象する即物的な構図。
その目の背後に「狂乱」を隠した情念がその後一気に噴出して、街角での
至る所でのライブドローイングへと展開してゆく事になる。
直線で画された街路を身体を張ってひっぺ返すのような、月一度のライブドロー
イングを続ける藤谷康晴の、その後展開があるのである。
この都市破壊ともいうべき彼の画業行為は、今年その都市の古典的原点でもある
京都個展の挑戦を経て、あきらかに都市の奥に潜む歴史的魔の情念の表出を抉り
出す方向を見せている。
格子状の安全・衛生・管理の街路の奥に潜む、千年の都の魔物。
京都と同じような碁盤の目状の札幌の街角。
そこを削ぎ落として情念の魔を注入し昇天するかのように今回、「神の経路」と題さ
れた長さ3m巾1・8mの作品が吹き抜けを貫いている。
従来のモノクロームな色調は様々な色彩を帯び、竹のように天に伸び華麗である。
魔物は龍のように天を貫き、哄笑している。
都市の虚飾に満ちた欲望の衣装を剥ぎ取り、憎悪とも思えるその虚飾を凝視した
眼は今、新たなパトスを保って都市のロゴスを見詰め直しているかのようだ。
*藤谷康晴展「覚醒庵~ドローイング伽藍~」ー9月13日(火)-25日(日)
am11時ーpm7時:月曜定休。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503