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テンポラリー通信

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2011年 08月 03日

新たな展示ー弓張月(14)

今週写真家竹本英樹さんが、新たに作品8点を2階に展示した。
作品はみな石狩の海を背景とするものである。
セピア色連作小品5点と周りを貝殻で埋め額とした同サイズの小品一点。
さらに四っ切りサイズの大きめの作品が2点である。
セピア色の連作5点と貝殻の額の作品は、ともに今年春撮影の新作である。
2階吹き抜け北側回廊に並んだ5点のセピアの作品群は、階下中央の佐々木
徹のゴム布コラージュ作品の色彩と呼応するようで美しい。
貝殻を埋めて額装しガラスに納められた作品は、一点だけ北側の奥まった
コーナーに置かれている。
渚を歩く竹本さんの愛娘結音ちゃんだろうか、愛情溢れる作品である。
そして注目すべきは、吹き抜け南側回廊に展示された大きめのふたつの作品で
、ひとつは当初の2009年撮影時の旧作である。
そしてもうひとつは「PAST?FUTURE?」と題され、一度写真がくしゃくしゃに
破かれ、その破れた断片を再び貼り合わせ再生した作品である。
画面上部4分の3を占める灰色の切れ切れの海を背景に、3,4人の青い人影
が渚に揺れている。
表面は布のように皺寄り、波打って、不思議な立体造形のようにある。
メタ佐藤さんとともに、被災地から送られて来た毀損した写真を洗浄し乾かす
作業をした経験が、この作品を創らせたという。
この作品に見られる不思議な立体感覚は、他の作品の銅版画のような色調と
ともに、通常の写真の枠を超えて感じられ不思議な存在感がある。
今回の「海に沿って」展は、この竹本作品が2階吹き抜けに展示される事で、
よりくっきりとその主題を凝縮させてきた。
吹き抜けから眼下の作品たちと共に全体を視野に入れると、作品はそれぞれ
見事にと呼応して、見る者を包み、訴えかけるようだ。
空白だった2階部分が小さな個展のように充実する事で、展示に全体として
空間にひとつ、芯が生まれた。
今回竹本さんを誘う切っ掛けとなったのは、先週藤倉翼さんの青い霞むような
石狩河口の一枚の写真を見ている竹本さんの反応があったからである。
この時、竹本さんの中で何かが動いているのを私は感じていた。
ひとつの作品が、さらなる波動を生む。
今回の主題、勿論他の作品にも大きな刺激を受けたとは思うけれど、この時
誰よりも藤倉翼の青い石狩に竹本さんは自らの石狩を重ねて心動かしていた
と思う。
「海に沿って」
大震災と大津波と原発の負の状況が今に波及する現在、それぞれの<海>に
沿った心の発信がこの場で生まれ、負を正へと転換する波及を起しつつある事
も間違いない事と思われる。
それが「PAST?FUTURE?」と題された旧作の、破損から再生の一点の創造
であり、その痛ましい傷痕の立体美こそが、今信頼するに足る負から正への第一
歩である気がしてならない。
テンポラリーアーカイブスの諸作品が、今を撃つ力として再生するこの竹本作品
を呼び寄せたとも考えるのは、私の過剰な思い込みであろうか。


*「海に沿って」展ー8月14日(日)まで。am11時ーpm7時;月曜定休。
 :上野憲男「along outside of the sea」銅版画5点。佐佐木方斎
  「シーリング・ボード」彩色2点。戸谷成雄「雷神」一部。佐々木徹ゴム
  布にコラージュ。アキタヒデキ「座礁船」「石狩河口」「ヴェトナム少女・眼」
  写真。藤谷康晴「常温で狂乱」別巻。藤倉翼「石狩河口」写真。
  甲斐扶佐義「両猿」写真。野上裕之「掌」
  木・彫刻。(以上1階)
  竹本英樹・写真8点。高臣大介「冬光」ガラス。(以上2階)
 
*及川恒平フォークライブ「まだあたたかい悲しみー其のⅣ」
 8月21日(日)午後5時半~予約2500円当日3000円。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2011-08-03 12:43 | Comments(0)


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