2011年 05月 27日
台風の余波か、強く暖かい風が吹いている。 円山マンシヨン街、ビル風も加わり、帽子が飛ぶ。 昨日、帯広の岡和田直人さんが来る。 6月から勤めに出ると言う。 これまで父親の仕事を手伝っていたが、これからは会社勤務。 仕事の内容は同じらしいが、親から離れ他人の飯を食う。 なにか気持ち良く痩せて、きりっとした感じだ。 野上裕之さんの正月個展以来で、その時見ていなかった大きな皮手袋の 「鳥」の作品を見せる。 ふたつの皮手袋を親指付け根の辺りで縫い、鳥の羽根のように編んでいる 野上さんの写真も見せた。 なんか顔が変わったなあと、岡和田さんがそれを見て言う。 野上さんもそうだが、岡和田さんもそうである。 人は意志的環境によって、顔が変わる。 だから容貌という。 容は<かたち>とも読み、内的な要素が働いて生まれる<かたち>の事だ。 形は外的な要素が主となって出来る<かたち>である。 形容とは、このふたつの要素を併せていう<かたち>の事だ。 内なる意志が外にも顕われる。 岡和田さんも野上さんもそういう顔である。 勤務した後も、いずれ映像活動を再開し、いつかここでまた個展をしたいという。 そんな心の位置を伝えに、ふいっと訪れたようだ。 阿部守さんの作品も見たかったと言っていたから、この作品の背景にある 石狩河口の経験を話すと、目が輝いた。 岡和田さんも何故か石狩の風景に惹かれ、撮影を続けているからだ。 いずれお金を溜めしばらく逗留して撮影をします、と言って去って行った。 岡和田さんの帰り際、かりん舎のふたりが訪ねて来る。 村岸宏昭の追悼本を新たに10冊持って来てくれる。 まだ少し在庫はあったが、私がよくこのブログで、Mよと書いているので 嬉しかったのだろうか・・。 山田航さんが先日Mについて東京新聞に書いた文章を、見せてあげた。 黙って読んでいたふたりは、読後どちらからともなくぽつりと呟いた。 お母さんがきっと喜んでいるね。 さらに山田さんが編集長を勤める短歌誌「かばん」の編集後記を、坪井 けい子さんが声を出して読んだ。 この雑誌には、野上裕之さんの作品に啓発された山田さんの短歌が掲載されて いる。その歌にも感動したようだが、さらにこの雑誌の山田さんの編集後記に 坪井さんは心動かされたようだった。 詩とは、失語によってもたらされるものです。一旦すべての言葉を喪ってから 発せられる言葉にこそ、真実の詩があると言えます。われわれは日々、何を 目の前にして言葉を喪っているのか。何のために失語の向こう側で言葉を 紡ぎ続けるのか。 朗読歴何十年来月21日149回目の朗読会を迎える坪井けい子さんが、 山田さんのこの言葉を朗々と読み上げた時、久し振りに彼女の声を聞いて、 私は一瞬震えが来たような気がした。 大きな悲劇の前に短歌は無力です、と始るこの文章に坪井さんの心は反応して 思わず朗読というかたちで声に出ていたのだ。 この文章の頭にある詩とは、表現の本質と置き換えてもいいものである。 今回の大震災から、深く内なる言葉を見詰めているひとりの表現者の真摯な 姿勢に、優れた出版人でもあるかりん舎のふたり坪井さんと高橋さんの心は 敏感に即座に反応していたのだ。 そして机の下に無造作に置かれた一冊の雑誌はこうして声となって立ち上り、 まるで舞台の素適な台本のようにきらりと輝き、一瞬のステージのように 光った時間を生んでいた。 *鉄・インスタレーシヨン 阿部守展ー5月20日(金)-6月5日(日) am11時ーpm7時:月曜定休。 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2011-05-27 13:27
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