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テンポラリー通信

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2011年 04月 30日

風立つー燃える春楡(1)

一葉の写真が語りかけるものがある。
燃える春楡・エルム。
これを主題に企画を考える。
昨日はこの写真の作者Aくんと熱く話した。

札幌駅と大通りを繋ぐ大規模地下通路。
その影響でその上の街路樹春楡が伐採され、オオバボタイジュに
切り替えられるという。
地下水位の高いところを好む春楡より、根の浅いオオバボタイジュの方が
適しているからだそうだ。

 木の葉が落ちて、雪の降る札幌の情緒も好きだが、春、夏、秋と
 街の春楡 の梢に葉の繁る札幌は何ともいえなく好きだ。
 春楡は別名赤だも、札幌の人が英語でエルムと呼んでいる樹。
 北大生が「エルムの梢」と歌うあの樹である。地質に合っているのか、
 札幌には特に多く、それが街のしっとりとした風格を作っているのであった。
 ・・・・・
 大通りの大木はだいたいこの木であったが、最近は駅前通りもチキサニの
 並木になった。このごろは、隠居して東京暮らしであるが、ときどき戻って
 来て、この聖樹の並木が育ってきた姿を見て、ああ、札幌はいいなあ、
 と思うのだった。もっともつと、春楡の茂る街にしてほしい。

          (山田秀三「春楡の茂る札幌」1986年刊「アイヌ語地名を歩く」)

札幌をこよなく愛されたアイヌ語地名研究の碩学、山田秀三さんが25年前に
遺された一文である。

 ああ、札幌はいいなあ。
 もっともっと、春楡の茂る街にしてほしい。

この本当にこの北の大地と札幌を愛した先人の言葉に、今の札幌は何を語る
べきなのか。
かって山田秀三さんが喜んでいた駅前通りの春楡(チキサニ・エルム)の並木
も大部分が失われて、今は車と道路工事の茫々とした殺風景な光景が広がっ
ている。
その真下にはアートとハイテク電子機器の壁面が広がり、<「交通」と「交流」
の社交空間・創造都市さっぽろ>(武邑光裕)を謳う未来が語られている。
この事は北海道新聞2月27日朝刊30面全面で、3月12日地下歩行空間開通
を未来への第一歩として記念すべき日として掲載されているのだ。
皮肉にもこの大規模地下通路開通日の前日、今度の大震災・大津波・原発事故
が発生する。
これにより大規模地下通路のオープンセレモニーは自粛され今日に至っているが、
問題は自粛で済む事ではない。
「デジタルサイネージ(電子看板)を通して、パソコンやケータイといったパーソナ
ルな端末と公共空間がインタラクテイブに結ばれる」といった電気空間にワクワク
するとここでは語られているが、ここに明瞭な事は<札幌はいいなあ>と感受する
春楡と対極にある電子看板<ワクワク>の回路である。
<インタラクテイブ>という舌を噛みそうな横文字は、コンピューターを媒介とする
対話であり、一方の山田秀三さんが語る対話は、春楡を媒介とするそれである。
札幌は駅前の地上の風景と地下通路の風景が路面ひとつ隔てて対極的に進行
している。
一方は<札幌は、いいなあ>とその媒介を捉え、一方は<インタラックテイブに、
ワクワク>とその媒介を捉えている。
一方はコンピューターであり、一方は春楡である。
一方は通信伝達手段の機械であり、一方は有機的な生命体である。
そこで世界への回路の相違が明確になる。
今度の大震災がもたらした教訓とは、この電子機器への過度の依存への
自然からの大いなる警鐘と私は考える。

地下通路の電子機器と地上から消された春楡。
このふたつの現実は、それぞれが今札幌をどう捉えているかを問うている。
インタラクテイブにワクワクという世界に、自然としての札幌はない。
そこにあるのは、個人端末と結ばれた電子機器の情報世界である。
いわば現代版井戸端会議である。
一方札幌はいいなあという世界には、自然としての札幌への愛がある。
風景がある。
端末機器で結ばれる世界には、個人的情報世界が優先する。
そこには<ともに見詰め合う世界>は優先されても、<ともに同じ方向を見る>
開かれた愛の世界(サン・テグジュベリ)は希薄である。
それが、<ワクワク>と<いいなあ>の差異とも思える。

 ・・・この聖樹の並木が育った姿を見て、ああ、札幌はいいな、と思うのだ。

私はこの四半世紀前に語った山田秀三さんの言葉に、今も深い思いを、
札幌への深い思いを感じている。

 大昔、春楡姫が天上から降ってアイヌの国に火を伝えた。
 後に天から降られた神が春楡姫と会いを語らい、生まれたのが
 アイオイナカムイで、アイヌに生活文化を教えた創造神であるという。

         (同上:山田秀三「春楡の茂る札幌」)

 ・・・新しい社交空間として大きな意義があります。その中心となるのが 
 日本初のCGMを導入したデジタルサイネージ。パソコンやケータイといった 
 パーソナルな端末と公共空間がインタラクテイブに結ばれることで日常芸術
 の発信拠点となればいいなと思います。

           (同上:武邑光裕「創造都市さっぽろの未来」)

同じ<創造>という言葉だが、どちらに固有の札幌への愛が感じられ得るか。
その差異は自明の事に思える。
私は一方をすべてにおいて否定する気はない。
しかし札幌への本当の深い愛は、<春楡の茂る札幌>にこそ感じられ、
その事実を今大切にと考えるものだ。

*「記憶と現在ーそのⅢ」展ー5月1日(日)まで。
 am11時ーpm7時。月曜定休。
*今村しずか×有山睦ライブー5月5日(木)午後5時~
*及川恒平フォークライブ「まだあたたかい悲しみー其のⅢ」
 5月8日(日)午後4時~予約2500円当日3000円

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax-11-737-5503
  


 

by kakiten | 2011-04-30 15:09 | Comments(1)
Commented by マツウラ at 2011-05-01 12:15 x
春楡に札幌への愛を感じるのは、確かに多くの人が頷くところですね。しかしそれが地下歩行空間のCGMサイネージと対立するものなのでしょうか?CGMサイネージは、大変価値のある事業だと思います。春楡がそれの犠牲になったかのような文脈は、全く納得いきません。


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