2011年 04月 11日
大きな困難を共有した時人は、他者を思うコンミューンを保つのだろうか。 大きな困難が人と人を重ね、悲しみ苦しさを共有させ、余裕の内にある慈善 ではなく、心と心を結ばせる。 被災地の生き残った人々の何気ない他者への小さな思いやりを見ていると、 時にそうした感慨をもつのだ。 大きな慈善ではなく、小状況の中での隣人同志の小さな労わりである。 多分紙一重の安全カプセル内に今いる我々が、大状況的に感じている救援 とは違う、もっと身近で自然な個人と個人の労わりである。 人間の力を超えた大きな脅威・困難の前で、自然と身を寄せ合うように他者を 庇い、我を抑え思い遣る。 百の理念、百の啓蒙に勝る自然な行為・振る舞いが個々の困難な状況の中で 多く見られているような気がする。 「スモール イズ ビューテイフル」(E・F・シューマッハ)とは、この事でもある。 紙一重の安全カプセル内にいる我々は、ともすれば大状況的観点を定め勝ち だが、謙虚にこの事実を被災地の困難の内から学ぶべきと思う。 普段の日常の中で、何処まで他者を思い実践しているか。 その事を仕事の基本に生かし得ているか。 等身大の隣人を忘れ、時に大状況的啓蒙へと思い舞い上がってはいないか。 収蔵している作品を棚の奥から持ち出し、ささやかだが決然とした展示を<祈り> で再構成し2期続けながら、どこかで深い徒労感、無力感に襲われて落ち込む 事があった。 そんな無気力な鬱々とした日の帰り際の夕暮れ、電話が鳴った。 暫らく・・と声が語りかける。 すぐに誰とは分からない。よくある苗字で声も忘れていた。 何度か聞き返し、あっと気付く。 欧州在住の日本の友人である。 こっちではもう連日日本沈没のような報道の連続だよと言う。 極東の小さな島国が、大地震と大津波、さらに原発事故でもう瀕死の 状態のように報道されているらしい。 大陸にある国の人々から見れば、四方を海に囲まれた細長いこの島国が 大地が揺れ崩れ、大波に飲まれ、果ては原発が壊れ放射能汚染が続きと、 もうそれらの映像だけで今にも太平洋の海原に沈みそうな気がするのだろう。 日本の地図と被災の映像を重ねれば、遠くから見てそんな気がするのも 分からない訳ではないのだ。 被災支援のチャリテイもしてみたけれど、これだけではなくなにかもっと 本質的なものを展示して、日本の心をこの際訴えてみたいと電話の 向こうで熱心に言う。 その展覧会の企画コンセプトを是非書いてくれと重ねて依頼された。 <花>を主題とするある舞踏家とその写真を今考えているという。 西洋の概念にある植物素材としてのフラワーではなく、日本の<花>、 精神的美としての花のあり方を、このような状況の時こそ展示してみたい というのだ。 原則的に承知してなお今考えているその舞踏家の資料をお願いして 電話は終った。 1年ぶりに不意に来た電話が、少し萎えた私の気持ちを奮い起こして くれる。電話の声にも考え方にも<花>があった。 心に響いた遠くからの声は、正にフラワーではない心に訴えかける<花> があったのである。 自然の物理的脅威に怯えている今、物理的な自然ではない自然、それを 古来日本では花といったのではないだろうか。 後日メールで送られてきた舞踏家の花の解説には、花を神とした沖縄の 言葉が記されていた。花の子は神の子、神の子は人間の意とあった。 花を神とし、美とした心の伝統を沖縄だけではなく、日本の古代の心に ある事を私たちは知っている。 世阿弥の「花伝書」もまた、そうした本である。 遠い小さな声もまた花である。 孤立し無力を感じていた私の心は、その後いくつかのこの<花>の声を聞く。 電話の来た同じ日琴似屯田兵村展の最終日、古館賢治・カボウ・toytoyの ライブで最後に喜納昌吉の「花」が歌われ涙したと、聞いていた何人かが その後伝えてくれたのだ。 一見脈絡のないこの札幌と欧州からのふたつの<花>の便り。 私には深いところで繋がって、<花=神>の声にも聞こえていたのだ。 *「記憶と現在ーそのⅢ」-4月12日(火)-5月1日(日) am11時ーpm7時:月曜定休。 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2011-04-11 15:50
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