2011年 03月 23日
素裸の「個」が、愛や誠実、やさしさ、勇気といった、いまあるべき徳目の 真価が問われている。 ・・あきれるばかりに単純な命題は、いかなる修飾もそがれているぶん、 かえってどこまでも深玄である。 (辺見 庸「水の透視画法」) 昨日の道新夕刊、2008年から随時連載されてきた辺見庸の最終回の 文章が載っていた。 宮城県石巻市出身という筆者の被災地を見る痛切な文である。 若い日に遊んだ美しい三陸の浜辺。 私にとって知らぬ場所などどこにもない。 そんな文章に誘発されたかのように、私は私の生まれた場所を 昨夜偶然歩いていた。 「the beginning」展のある場所である。 そこは昔丸美デパート、後に三愛ビル、今のパルコ別館である。 その向かいが私の生まれた場所である。 その場所は市街地改造第三地区として高層ビル化がなされ、 パルコビルは市街地改造の最初の第一地区なのだ。 その5階で20人のアーテイストが展示していた。 私はパルコ本館の裏通りにあるパレードビルと場所を勘違いしていた。 もし先にこの場所を正確に知っていたら多分行く事はなかっただろう。 東側に隣接するごく近い場所とはいえ、かって自分が闘った場所の 真向かいと知れば、そこでアートなど見ようという気持にはならないからだ。 いくら半数の知人・友人が出展しているとはいえ、個人的な気持として あの場所界隈は棄ててきた場所である。 中通りにあるパレードビルに入りここではないと気づき、ふと三愛ビルを 思い出したのだ。今は確かパルコだったと。 ここまで来て帰るのも癪である。気持を決めて駅前通りに出て入り口に 向かった。 何十年ぶりだろうか、この狭いひとり乗りのエスカレーター。 地下街をまだ想定されていない地上5階地下一階のこじんまりしたビル。 私の幼少期にはまだ一軒の大きな瀬戸物屋さんがあり、その店の名前 が、丸美であった。 そして市街地再開発により5階に高層化され、丸美デパートとなる。 その後そのオーナーは自死したと聞く。 専門店がデパート化した無理の悲劇である。 この第一地区がこの界隈の難民化の始まりを告げる。 第二、第三、第四と次々と高層ビル化が行なわれ、現在のビル街の基礎が 出来る。 維新堂という大きな文房具店の辺りは4プラビルに、富貴堂という書店は パルコに、ギンザ洋装店の辺りはコスモビルに、丸惣河関瀬戸物店辺りは エイトビル(後にアルシュエ)に、私の生まれた所は中心街ビル(ピヴォ)と ショッピングビル街となるのだ。 この他サンデパート(ドンキー)シルバービルと道路は拡幅され、市電は 廃止されて、高層ビルが立ち並ぶ街となる。 通りの名前も祖父の時代には停車場通りと呼ばれ、父母の時代に駅前通り、 今は4番街と呼ばれようになるのだ。 このビルパック群を抜け、あたかも難民のように生きてきた自分がいる。 この個人的な理由から今のこの界隈には何の魅力も感じてはいない。 その気持を押し殺して会場に入ると、個々の作品たちが息を凝らすように 迎えてくれる。 知人の姿が見え、それを機会に早々に会場を後にしたが、個々の作品は 力作が多かったと思える。 やがて解体されるというこのビル。 この界隈では一番古いビルの最後に相応しく、まるで壊れた原子炉の中の 放射線のように、蠢(うごめ)く何かがあった。 そしてその事実が私には救いだった気がする。 参加した作家がこの場を意識して作品がそうなった訳では決してないだろう。 多くはこの場の歴史など何も知らず、ただ都心のパルコ5階全フロアーを 好きなように使える事に満足しただけかも知れない。 しかしその伸びやかな気持ちが、この草臥れかけたビルパックのカプセル 内を少しだけ若いエネルギーで充填していたのだ。 企画者の思惑が例え予定されている<札幌ビエンナーレを下支えできる環境 を整えていく事>にあったとしても、今回の展示の何点かは、そんな思惑を超え て在ったと思う。 知人のFくんと一緒に帰りにその事実を熱く語り得たことは、行く前には思えぬ 収穫の事だった。 *テンポラリースペースアーカイブス「記憶と現在」展ー3月25日(金)まで。 am11時ーpm7時。 *及川恒平フォークライブ「まだあたたかい悲しみその2」-3月27日(日) 午後4時~予約2500円・当日3000円。 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2011-03-23 16:58
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Comments(2)
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