2011年 02月 15日
先日の日曜日、とある雑誌の写真に触発された風景を歩いた。 「ル・クレジオを旅する」と題されたその写真は、冬の北大の中央ローンに 立つル・クレジオとエルムの樹とサクシコトニ川のある風景だった。 2009年12月「先住民族の語りと文学」という北大で行なわれた講演会に ル・クレジオが出席した時のスナップである。 この風景の中を一度歩いてみたいと前から思っていた。 この日、少し荒れ模様の北大構内はすべてが影絵のように、 白と黒に沈んでいた。 撮影されたと思える地点は、除雪の雪山で盛り上がり視界が塞がれている。 ル・クレジオの背後のエルムの大木を目印に、雪山に登った。 白い起伏にサクシコトニ川の曲線が黒く流れている。 降りしきる雪が斜めに流れて、エルムの黒い幹と枝、川の曲線が 白い天地を構成している。 4階建ての白い横長の建物がその遠景を区切って、エルムの樹と川の 有機的な曲線と美しく調和している。 さらに右手奥には農学部の時計塔のある茶褐色のどっしりした 建物が降る雪に霞んで見える。 構築物の直線と自然の曲線が美しく交響している。 これは冬でなくては見られぬ、削ぎ落とされた線の織り成す風景である。 この風景をしばらく堪能して、奥の農学部時計塔のある方向に歩く。 そこから南側を迂回し、養樹園のある方へ陸橋を渡る。 養樹園の中を抜け国際交流会館脇を通り石山通りに出る。 そこを横断して再び北大第一農場に入りポプラ並木まで縦断して 北大中央ローンの道に出た。 農場内を歩いている時は遮るものが何もない為、西方の連峰から 吹き下ろす風と雪の舞う真っ白い世界が続いた。 関係者以外はあまり通る事のないこの道。 前を歩いている人がひとりいて、その影が遠く黒いポプラのように見える。 農場を抜け大野池を過ぎ綜合博物館を覗く。 この建物も威厳ある良い建物で、正面から見る壁の装飾が 音楽を奏でているかのようである。 3階建ての黄土色の石の壁に縦に細長く曲線の窓が連なっている。 その線の諧調が吹雪の雪の流れと交響して、バッハのオルガン曲を 奏でているかのようだ。 内部は薄暗く長い廊下にさまざまな陳列室が続いていた。 古い蝋管に録音されたアイヌのユーカラが流れる一角で しばしその笛のような声に聞き惚れた。 博物館を出てエルムの大木の立つ道を抜け、振り出しのクラーク像の ある小広場へと戻る。 白く煙り黒く沈むモノクロームな世界を放浪していると、近代の3、4階建て の重厚な建物がしっくりとこの風景に調和してある事に感動していた。 最近建てられたであろう高層ビル系の直線建物群は、その調和に違和感 を与えているのだ。 かってアメリカのショッピングセンターを視察した時、講師の人が語っていた 事を思い出していた。 人間的なスケールは2階までです。それ以上の高さは非人間的なもので、 それゆえショッピングセンターの高さは地下を入れても3層までなのです。 摩天楼を築いたアメリカのその果ての結論を、その時は不思議な気持で 聞いていた事を思い出す。 高層化する事が進歩と思い、その先進国としてアメリカがあったからである。 ショップという人間の楽しみをヒューマンスケールで位置付け、ビジネス街の 高層効率性とは分離して考えていた先見性を思うのである。 だがそうした時代よりさらに前の建物と本来の自然風景の調和が、 このエルムゾーン・北大構内には今も生きているのだ。 その事実がこの吹雪の風景の内に骨格として今も生き潜んでいる。 建物の黒い線、樹木の有機的な空へ向かう幹と梢、川の大地を流れる曲線。 それらが深々と調和して、雪と風の白い風景の中にくっきりと存在している。 この結晶する風景を破壊する、現代の野放図な拡大増幅に歯止めを、 我々は根底の哲学として取り戻さなければならない。 もしこの北大構内が林立する高層ビル群に覆われるような事態が生じる なら、それは風景の文化の破壊以外の何物でもないだろう。 遠い昔聞いたショッピングセンターのコンセプト、ヒューマンスケールの遵守 の哲学にも劣る事である。 南西の方角から北東にかけて連なるエルムゾーンのこの優れた風土こそ 私たちが守るべき先人の遺産である。 あらためて吹雪のエルムゾーンを歩いて思い至り確認した事実なのだ。 *佐々木恒雄展ー2月22日(火)-3月6日(日) am11時ーpm7時:月曜定休。 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2011-02-15 13:25
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