岡部亮展最終日。
奥さんの新明史子さん、愛娘の麦ちゃんと、3人家族が揃う。
新明さんのお母さんはたくさんの手料理を拵えて来廊。
麦ちゃんは早速梯子を上り、吹き抜け回廊を駆け回る。
もう慣れたものだ。
飽きるとブログを打ち込んでいる私に纏わり、私の回転椅子で遊ぶ。
子供のエネルギーは凄くて、疲れを知らない。
嵐のように家族の方たちが去って、夕方夕張美術館の元館長
上木和正さんが来る。
佐佐木方斎展以来2度目の来廊である。
高速道路飛ばして来たよ、と言う。
ドラム奏者の有山睦さん、芸術の森美術館のHさんと3人で
しばし会場を熱心に見ている。
昨日出来たばかりの新作「実」を手にとり、これを見たかったのだと
上木さんが言う。
情報は私の昨日のブログを読んだ所為らしい。
結局この作品は、上木さんのお買い上げとなった。
その間有山睦さんをふたりに紹介していて、ふと気づく。
Hさんがムラギシの追悼本に村岸宏昭の思い出を書いている事を
思い出したのだ。
有山さんにその事を話し、Hさんにもムラギシの曲を演奏している人と
紹介した。
そしてモエレ沼公園ガラスのピラミッドで録音した有山さんたちの初演奏
ムラギシ曲「撓む指は羽」を会場に流した。
実はこの日2度目の事である。
岡部亮さんの家族が先に帰った後、岡部亮さんの希望で
ふたりで聞いていたのだ。
初めて聞くHさんは感無量の面持ちで聞いている。
そんな小さな出来事があって、岡部亮展最終日は終る。
最後に仕上げた3っの蔓に繋がれたほおずきの実のような作品「実」は
こうしてたった一日のお披露目を経て、夕張へと渡っていった。
共に夕張に生きた盟友源藤隆一さんを先月亡くした傷心の上木氏が
何故この作品に惹かれたのかは分からない。
しかし彼の心を強く捉える何かがあったことは確かである。
私にはこの最後に出来た「実」作品が、札幌から野幌台地を経て夕張へと
渡った<羽>のように思えたのだ。
それはまるでムラギシ曲<撓(たわ)む指は羽>のように、人の心を
握っている。
結局作品とは、人と人の回路である。
ムラギシの音も、岡部亮の渾身の彫刻「実」も、人の心の回路である。
「豆の莢(さや)」から始まり、プロペラの付いた「種子」の製作、そして
蔓の繋がる「実」の完成に至った岡部亮の個展はこうして終ったのだ。
かって自分の生まれた故郷の台地を俯瞰した彫刻家の目は、今
自らを囲繞する莢から種子、実へと彫り進み、その作品は俯瞰した
台地を渡って隣の夕張の山へと根を下ろしたと思える。
最終日、小さな作品の凝縮したこのドラマを、作家はきっと終生
忘れる事はないに違いない、と私は思う。
*野上裕之展「鳥を放つ」ー12月21日(火)-1月16日(日)
am11時ーpm7時。月曜:元旦休廊。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
tel/fax011-737-5503