岡部亮今個展最後の作品が出来た。
実が三つ蔓に繋がりひとつに彫りこまれた、両手に乗る程の小さな作品だ。
「豆の莢」ー「種子」ー「実」。
今回個展の三部作となる。
この三段階の推移に、彼の現在が凝縮されてある。
三つの実は、奥さんとひとりの子供のいる彼の現在そのものとも思える。
自らを取りまく環境そのものを莢(さや)として対自化し、種子として自らを彫刻し、
そして今家族を彫刻したと思える。
個展が始って2週間。
前回の歯の彫刻から7年間の潜伏した現在を、今対自化し形にした
のである。
1999年の沖縄体験、帰郷後の故郷北広島市の再発見、
自分を取り巻く環境を見詰め、与件としての故郷を彫刻家として
再造型しようとする潜伏期間は、この三つの実の繋がる作品において
ひとうの段階を終えたのだ。
結婚し創りだした現在の環境を、「莢(さや)」とし「種子」とし「実」として
新たな与件のように対自化したのである。
このささやかな個としての営みこそが、今掛け替えのない信ずるに足る
現実である。
世界中で無数の人間が営んでいるだろう小さなこの無名の営み。
黙々と営まれ、個的状況の内に声なく存在する生の小さな基盤。
岡部亮が「豆の莢」「種子」「実」として彫刻表現し得たものは、
そうした誰でもが生の内に保っている小さなしかし掛け替えのない
無名の個的与件である。
そしてその与件とは、自らが創りだした血の通った与件なのだ。
それを人は生活という言葉で一般的に括るかも知れない。
しかしこの個的与件の創生こそが、個的なリアルな基盤なのだ。
人は何を基盤にして生きていくのか。
今回の岡部亮の作品は、ひとつの答えでもある。
彫刻家は彫刻し、その答えを顕す。
*岡部亮展withシミー書房「詩の本と彫刻」-12月12日(日)午後6時まで。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
tel/fax011-737-5503