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テンポラリー通信

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2010年 12月 09日

親身な風景ー夢の系譜(13)

岡部亮さんの母上が来る。
父上の昌生さんとは旧知の仲だが、最近は会う事もない。
亮さんの奥さんの新明史子さんの個展にも来てくれたので、
2年ぶりである。
母上の邦子さんも優れた美術家で、以前作品を見た時その迫力に
圧倒された記憶がある。
夫婦ふたり美術家である他人には分からない苦労もあると思う。
しかしそのふたりの優れた遺伝子を亮さんは受け継いでいる。
今回も親として心配しつつ見ている様子が感じられた。
2時間ほどお話して、すっかり心も軽くなったような母上が帰られて
今度は新明さんのご両親が見える。
こちらにもこれまでの岡部亮の作品の推移を、
私なりに系統立てて説明した。
最新作に至るまでの経過を聞いている内、納得するものがあったのか、
ふたりの表情が明るく、柔らかくなる。
たとえ私のような者でも、第三者である他人が作品を最初から見ていて
熱く語ってくれる事は嬉しかったのだろうか。
たとえ不充分な説明でも、どこか納得した自分たちが嬉しかったのだろうか。
私以外は誰もいなく、その事がかえって本当の心中を顕していて、
近くても遠くで心配していたものが溶け、ほっと安心した様子に見えたのだった。
近い距離が遠く、心配になる時もある。
人と人の関係にはそうした事が多々あるのだ。

おふたりが帰ってドラム奏者のAさんが来る。
彼は音楽家らしく、作品の線に惹かれるようだ。
彫り込まれた線が、ドラムの叩きに似ているのかも知れない。
絵本を2冊買ってくれた。
Aさんが熱心に会場を見ていた時電話が鳴る。
沖縄の豊平ヨシオさんからだった。
夏に札幌に来た東京の岡部健司くんから、私の写真が届いたと言う。
痩せて写っていて心配したという。
え?きっと夏痩せでしょう、と冗談めかして答えた。
来年夏全作品完成時再度の訪問を約束して電話は終った。
昨年2月、初めて沖縄の豊平さんを尋ねた折り偶然知りあった学生の
岡部健司くんは、その後豊平さんの作品に接し涙した。
それが縁で彼は豊平さんと私を、今またこうして繋いでいる。
その話をAさんにすると、前に写真で見せた豊平さんの作品を思い出したのか
いつか是非見にいきたいなあと呟いた。
ムラギシの遺作曲を自らの演奏バンドで取り入れているAさんと、ムラギシの
遺作本を5冊も購入し、身近な人に贈っている豊平さんとはきつと会えば心が
通じ合うに違いない。
この交流には、既知・未知の区別はない。
遠くても近くにあり、近くても遠くにあるもの。
目に見える距離を越えて、心の繋がる回路に作品の存在がある。
こうした事を実感していると、昨日までの胃に溜まっていた疲れがすっと
溶解していった気がした。


*岡部亮展withシミー書房「詩の本と彫刻」-12月12日(日)まで。
*野上裕之彫刻展ー12月21日(火)-1月16日(日)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2010-12-09 15:06 | Comments(0)


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