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2010年 11月 23日
23歳の青年は何故北へと移住して来たのか。 本名中川良。昭和27年岩内の画家木田金次郎の元を方言の研究の為 訪れたこの青年は、10年後死の一年前次のように回想している。 興奮し、それから憧憬した。北海道という自然、木田のような画人が苦もなく 育った風土に。同じ空の下で、こんなにも人間が生きて見える土地がどこに あっただろうか。関東にも関西にも、そして九州にもなかった。 (「月刊さっぽろ」昭和37年3月) 現在芸術の森美術館で開催されている「札幌昭和30年代ーなかがわ・つかさ が見た熱き時代」展の主人公中川良ことなかがわ・つかさの見た<北>である。 私は今回一原有徳展とともに、横浜のKさんから寄贈された亀井文夫の映像 を見て、この青年の夢の形が少しは分かるような気がしている。 なかがわ・つかさは、昭和4年茨城県の生れである。 亀井文夫が記録した「日本の悲劇」(昭和21年制作)及び「生きていてよかっ た」(昭和31年制作)の10年間は、日本が物質的豊かさを追求しつつも 内なる廃墟が深化した時代でもある。 多感な青春時を、戦争時そして敗戦時の心の荒野の時代を過ごしたであろう なかがわ・つかさが、<こんなにも人間が生きて見える土地>と木田金次郎 の生きている北の風土に感動したのは、荒廃した日本の内面風景がその 背景に在ったからだと思える。 その風景とは正に亀井文夫が記録した日本の心の荒野の風景と思えるのだ。 本州の都市に比べ、比較的空襲等の被害の少なかった北の大地と、そこに 漁業を生業として画業に精勤した木田金次郎の生きた姿になかがわは、 傷つかぬ真っ白な夢の大地を見たのではないだろうか。 さらに木田金次郎には有島武郎に繋がる日本の近代の開かれようとした 自由への夢の系譜が潜んでもいる。 東京へは出ず、岩内に根を下ろし画業を続ける事を木田に示唆したのは 有島である。 その有島自身も狩太村に牧場を持ちやがて農夫に解放する明治・大正 の自由な浪漫に生きようと実践した文学者である。 木田の背後には有島に象徴される日本近代の開かれた浪漫がある。 白樺派の武者小路実篤の新しき村運動や当時の西洋に開かれた自由の 系譜がある。 昭和27年木田と出会った23歳のなかがわ・つかさがこの時感受した ものは、この日本の近代の正統な自由の系譜の存在であった気が するのである。 それは傷つき廃墟と化した本州の都市にはない風景である。 <興奮し、それから憧憬した。・・・同じ空の下で、こんなにも人間が生きて 見える土地がどこにあっただろうか。> この手放しの絶賛の背景には、亀井文夫が記録したようななかがわの 内なる荒野・廃墟の現実が潜んでいるのだ。 今あらためてそのような憧憬の北を、そこに生まれ育った我々が自覚的に 受け継ぎ、継承しようとこの北の大地を位置付けているのかと、問うのである。 なかがわ・つかさの孤独な闘いは、その後美術界への批評活動として 10年間闘い続けられるのだが、34歳の夏死ぬ1年前に遺された前記回想文 に篭められた憧憬の北の大地・夢の系譜は、美術の問題としてだけではなく、 広く時代の深部に疼くように今も発熱していると思うのである。 その事はこの北の大地に生きる我々が、心して受け留めなければならない 先人たちからの遺言でもある。 the republic of dreams。 そうした隠された近代の夢の十字架をこの北の大地は背負ってもいるのだ。 それは、夢のサムライー薩摩人村橋久成やお雇外国人ルイス・ベーマーに も連なる開拓使の時代から続く近代の夢の系譜でもあると思える。 *一原有徳追悼展ー11月26日(金)まで。 am11時ーpm7時。協力:かりん舎・中川潤。 :及川恒平ライブ「まだあたたかい悲しみ」-11月23日(祝)午後4時~ 予約2500円・当日3000円。 *岡部亮展withシミー書房「詩の本と彫刻」-11月30日(火)ー12月23日(日) テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2010-11-23 12:50
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